最新記事

ウクライナ戦争

中国からあの米同盟国まで ロシアを支持・支援する国は世界人口の半分以上

THE WEST VS. THE REST

2022年5月10日(火)16時55分
アンジェラ・ステント(ブルッキングス研究所シニアフェロー)

220517p22_RSA_02.jpg

中東でロシアの協力を得たいイスラエルのベネット首相 MENAHEM KAHANA-POOL-REUTERS

イスラエルの立場に大きな影響を及ぼしているのは、ロシアがシリアのバシャル・アサド大統領の後ろ盾である事実だ。

今のシリアではロシア系とイラン系の部隊がアサド政権を支えている。だからイスラエルは、シリアにいるイラン系の標的を攻撃できるようにするため、ロシアとの間で交戦回避の合意を交わした。

そのためイスラエルは、ロシアの反感を買えばシリアとの国境地帯の治安が脅かされると懸念している。ウクライナに人道支援を提供する一方、軍事支援に踏み切らないのはそのためだ。

首相のナフタリ・ベネットも、一時はロシアとウクライナの「仲介」に動いたほどだ。

中東諸国がロシアに擦り寄るのはアメリカに対する猜疑心やいら立ちがあるからだ。アメリカは同盟相手として信用できない。また人権問題に関するアメリカからの批判は、中東諸国にとって腹立たしいものだ。

中東で唯一、本当に親ロシアといえる国はシリアだろう。あの国のアサド政権は、ロシアからの軍事援助がなければとっくに消滅していた。

反植民地闘争を支えた恩人

近年のロシアはアフリカにも進出している。内戦が続く諸国ではロシアの民間軍事会社ワーグナー・グループが政権側を支援してきた。

だからアフリカ諸国は、おおむねロシアに対する批判や制裁には及び腰だ。

国連総会のロシア非難決議ではアフリカの多くの国が棄権した。国連人権理事会におけるロシアの資格停止決議にも多くのアフリカ諸国が反対した。

新興経済圏BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)中の民主主義国である南アも、ロシアを批判していない。

アフリカ諸国にとって、ロシアは昔の反植民地闘争を支えてくれたソ連の後継者だ。ソ連は南アのアパルトヘイト(人種隔離政策)時代にアフリカ民族会議(ANC)を支援していた。

だから今も、南アの指導層はロシアに恩義を感じている。そして中東地域と同様、アフリカ大陸にもアメリカへの敵対心があり、それが情勢判断に影響する。

中南米地域にも不和の種が

アメリカの「裏庭」の中南米にもロシアの応援団がいる。

キューバやベネズエラ、ニカラグアがロシア支持に回ったのは当然だが、他の国々も侵攻を非難してはいない。

BRICSの一角を成すブラジルはロシアとウクライナのどちら側にも加担しない「中立」の立場を表明している。

ジャイル・ボルソナロ大統領はウクライナ侵攻直前にモスクワを訪れ、プーチン大統領に「ロシアとの連帯」を約束した。ちなみにブラジルは、農業で使う肥料の多くをロシアから輸入している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中