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看護・介護や肉体労働はいつまで頭脳労働より低評価なのか 大卒者の3分の1は大卒者向けでない仕事に就く

2022年3月30日(水)18時15分
外村次郎 ※編集・企画:トランネット

印象的なセンテンスを対訳で読む

『頭手心――偏った能力主義への挑戦と必要不可欠な仕事の未来』の原書と邦訳から、印象的なセンテンスを紹介する。

●At the age of eight most children want to be firefighters or cooks, nurses or bus drivers, or people who work in shops - obviously useful occupations that serve other people and make daily life possible, as we were reminded during the Covid-19 crisis. Yet by the time they leave school most children have been guided away to less hands-on, cognitive-based jobs.
(八歳のときに将来どんな仕事をしてみたいかと訊かれたら、ほとんどの子供は消防士や、コックや、看護師や、バスの運転手や、店員と答える。コロナ禍になって私たちが改めて思い出したように、そうした仕事は明らかに人々に仕え、毎日の暮らしを可能にし、役に立っている。だが、中等教育を修了するまでには、ほとんどの子供がそうした仕事からあまり「手」を使わない仕事、認知能力を基礎とする仕事に導かれる)

――ある調査結果によると、イギリスやアメリカの親の大多数はわが子の大学進学を望んでいるという。「手」や「心」の仕事への評価が低いことと無関係ではないだろう。

●It is true that overall demand for the skilled trades has been falling and will probably continue to fall. The jobs are either being made completely redundant by technological change or are being deskilled: consider the switch from the old London black cab driver who has memorized the 'Knowledge' with an Uber driver who just follows directions from his or her phone.
(たしかに熟練を要する仕事に対する全体的な需要は減ってきており、今後もおそらく減り続けるだろう。こうした仕事は技術の変化によって完全に余分なものとなるか、単純作業化されつつある。道を暗記して「ロンドン市内全域に精通していた」かつての黒タクシーの運転手が、携帯の指示に従っているだけのウーバーのドライバーに取って代わられた経緯を考えてみればいい)

――技術の進歩は世の中を便利にする。だが、むずかしい作業が簡単になれば、それまで熟練を要することで守られてきた仕事が消えてしまうことにもなりかねないのだ。

●If one asks an economist why people in social care homes are paid so little, they would probably say, 'Because almost anyone can do it.' We all know that is not true. Anyone who spends half an hour in a care home, or indeed a hospital, knows that there are, as in most occupations, good carers, middling ones and poor ones.
(社会的介護施設で働く人々の収入はなぜこれほど低いのかと経済学者に訊いてみたら、おそらく、「ほとんど誰にでもできる仕事だから」という答が返ってくるだろう。その答が正しくないのは誰にでもわかる。介護施設でも、それこそ病院でもいいから三〇分過ごしてみれば、わかるはずだ。ほとんどの職業と同じように、看護・介護職の中にも仕事ができる人もいれば、まずまずの人も、あまりできない人もいる)

――ケア労働の報酬が全般的に低いのは、仕事の内容に対する世間の無理解が関係しているのではないだろうか。


『頭手心――偏った能力主義への挑戦と必要不可欠な仕事の未来』
〈目次〉
第一部 今の社会が抱える問題
第一章 頭脳重視の絶頂期
第二章 認知階層の台頭
第三章 認知能力と実力主義社会の謎

第二部 認知能力による支配
第四章 学ぶ者を選抜する時代
第五章 知識労働者の台頭
第六章 学位がものを言う民主主義社会

第三部 手と心
第七章 「手」に何が起こったのか
第八章 「心」に何が起こったのか

第四部 未来
第九章 知識労働者の失墜
第十章 認知能力の多様性とすべての未来


トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
https://www.trannet.co.jp/

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