仰向けで、ひざ裏がベッドから浮く人は注意...「ひざの痛み」をもたらす「圧迫」
滑車の役割とはどういうことでしょうか。滑車は、動力の伝達などのために使う器具で、力をかける方向を変える「定滑車」と、小さな力を大きな力に変える「動滑車」の2種類があります。固定された定滑車では、10キロの重さの荷物を持ち上げるのに10キロの力が必要です。しかし、固定されていない動滑車ならば、滑車に通した2本のロープで重りを引くため、10キロの半分の5キロの力で重りを持ち上げることができます。
先ほど、ひざのお皿は大腿四頭筋の腱とつながっていると述べました。大腿四頭筋は、文字どおり、大腿直筋、中間広筋、内側広筋、外側広筋という四つの筋肉で構成されています。つまり、ひざのお皿は、4本のロープを通した動滑車と同じ働きをしているのです。
人が走ったときには、体重の10倍の負荷がひざにかかるといわれています。体重が60キロの人であれば、600キロの負荷がかかるわけです。この負荷をやわらげる働きをしているものの一つに半月板があります。しかし、半月板が軽減できるのは、負荷の30〜50%といわれています。仮に50%だとしても30キロの負荷がかかります。
ところが、ひざのお皿は4分の1の15キロまで負荷を軽減できるのです。
これほど重要な役割を果たしているひざのお皿になんらかのトラブルが生じれば、ひざ痛が起こらないはずはありません。私は、ひざのお皿にアプローチした運動に方向性を定めることにしました。
「もう一つの関節」にアプローチする運動療法の誕生
ひざ関節(医学的には膝(しつ)関節)とは、大腿骨と脛骨の末端が結合する部分を指します。ひざ痛の原因を考察しようとすると、このひざ関節に目が向くのは、ごく自然なことだと思います。私も以前は、ひざ関節の状態ばかりを見ていました。
しかし、ひざにある関節は、ひざ関節だけではありません。もう一つの関節があります。ひざのお皿と大腿骨をつなぐ「膝蓋大腿関節」です。このひざにある「もう一つの関節」にこそ、ひざ痛を解消するカギがあるのではないか──そう考えた私は、ひざ痛を訴える患者さんの「もう一つの関節」をつぶさに観察し、データを蓄積していきました。
そのなかで、ある共通点に気づきました。ひざ痛の患者さんに治療を施すために、治療用のベッドにあおむけに寝てもらうと、痛いほうのひざの裏がベッドから浮いているのです。これは、痛くて、ひざを伸ばしきれないために起こる現象です。