最新記事

日本経済

不正転売について考えてみた

2021年12月16日(木)17時36分
廣瀨涼(ニッセイ基礎研究所)

3──どのように転売ヤーにとっての魅力をなくすか

ここまでは仲介業者であるメルカリによる不正転売に対する水際対策を紹介したが、第一次消費者に商品を手渡す小売り側も不正転売の防止に向けて取り組んでいる。例えばヨドバシカメラ マルチメディア京都(京都ヨドバシ)では2019年6月24日から、人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のフィギュア「METAL BUILD エヴァンゲリオン2号機」の予約販売が開始された際に、「商品名を正確に言えないと販売しない」方針を打ち出し、外国人転売業者に対する対策を行った7。

商品の定価は2万4200円に設定されており、所謂にわかファンにとっては敷居の高い値段であることから、そのグッズを購入したいと思うのは真に新世紀エヴァンゲリオンが好きなファンに絞られてくる。そのため、真に新世紀エヴァンゲリオンが好きなファンならば商品名を言う事ぐらい何ら問題のないはずなのに、その商品の名前が言えないという事は、購入者自身がその商品には興味がないことを証明してしまうこととなる。この措置は海外の二次流通業に商品が流れることを防ぐことにあったため、商品名が言える=日本語が喋れるというスクリーニングが目的にあった。そのため、この対応に対しては人種差別的だという批判もあったようだ。

そこで、外国人でもこの商品が欲しい消費者もいるため、店側は母国語でもいいから「新世紀エヴァンゲリオン」のいいところを語ってみるよう尋ねたという。このような方法で店側が購買者を選ぶことになると、例えば子どもや孫にお使いを頼まれた場合、頼まれた人は商品名はおろか作品の感想も言えないことから、どんなに依頼者が欲しくとも、購買を代行する者自身が興味がなければ手に入れることができないという事態が発生する。また、この対応では、日本人の転売ヤ―に対する対応としては不十分であり、国内における転売には目を瞑る行為となる。この対応が最善の策だったのかここでは筆者は明言しないが、店側もなんとか本当に商品を欲しいと思っている消費者に商品が渡るように悪戦苦闘していることがわかる。

他にも玩具小売店の「おもちゃのミッキー」では2021年9月8日にガンダムのプラモデル(ガンプラ)が入荷した際に、「転売対策として、ガンプラ等一部の品薄商品をお買い上げのお客様にご購入時に内装開封と一部ランナーのカットをお願いいたしております」と告知した8。「ランナー」とは、プラモデルのパーツ同士を繋げる枠のことであり、通常組み立てる場合は必ずカットする部分である。しかし、転売ヤ―にとってはその場でランナーをカットした場合、転売用に購入したそのガンプラは、新品ではなく中古品になってしまうため、二次流通業で販売する際の価値が下がってしまうのである。同様にヨドバシカメラ梅田店では、ガンプラの箱の裏に店舗印を捺印する措置が取られており、如何に一般の消費者にとってデメリットが少なく、かつ転売ヤーにとっての魅力をなくすことができるか、試行錯誤されている。

────────────────
7 FNNプライムオンラインめざましテレビ「商品名言えない外国人には売らない」京都ヨドバシの転売防止策に賛否https://www.fnn.jp/articles/-/1303  2019/06/26

8 ガンプラファン絶賛「画期的」な転売ヤー対策 編み出したおもちゃ屋に聞いた 2021/09/08 https://news.biglobe.ne.jp/trend/0908/ccn_210908_0521887007.html BIGLOBEニュース

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ

ワールド

ウクライナ、和平合意後も軍隊と安全保障の「保証」必

ビジネス

欧州外為市場=ドル週間で4カ月ぶり大幅安へ、米利下

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中