日本人には分かりにくい「アラブ」「中東」「イスラム」の違いって?
つまり、これら3つの名称と互いへの関係性をイメージ的に捉えてみると、次のような図で包摂的関係をなしていると言えよう。
アラブとは何か、また、アラブ人を統一または分裂させているものは何か。私は迷わずに次のように答える。「アラビア語を使っている地域はアラブを構成する地域であり、そこに住む人々はアラブ人である」。
アラブの範囲はかなり大きいものだということが分かるだろう。アラブ人は一つの国に住んでいるわけではなく、さまざまな国に分かれて暮らしているのだ。
現在、アラビア語が公用語の国はサウジアラビア、イラク、ヨルダン、シリア、エジプトなどペルシャ湾から北アフリカの21カ国に及ぶ(これらの国々をアラブ諸国という)。正確な統計はないのだが、アラビア語を母語とする人々の数はおよそ3億5000万人にのぼり、人口増加に伴い今も増える一方である。
さらに、先ほど説明したように「アラビア語を使っている地域はアラブを構成する」とすれば、アラブの範囲は欧米諸国やアジア、南米、ロシアなどに存在するアラブ・コミュニティにも広がっているといえる。特にアラブ人移民が多いフランスやイギリスなどのヨーロッパ諸国々で、アラビア語が街中で通じる場面は意外と多いのである。
アラブ人に特定の肌の色はなく、黒いアラブ人もいれば、白いアラブ人もいる。また、同じ一つの宗教に帰依しているわけではない。イスラム教徒もいればキリスト教徒も存在する。
多くの日本人は、アラブ=イスラムだと思っているようだが、そうではない。アラブが単なるアラブ諸国にとどまらないように、イスラムもイスラム教を国教とするイスラム諸国にとどまらない。
中東はどこを指しているのか。そもそも、中東と言う言葉自体は、中東と呼ばれる地域に住んでいる人々が付けたものではない。
複雑な歴史的関係は置いておいて、政治的意味と地理的意味を同時に持つ「中東」という言葉を使うのはもっぱら欧米諸国だ。
そもそもはイギリスが作り出した概念で、19世紀にヨーロッパ列強の植民地獲得競争が盛んとなっていたころに誕生した。イギリスはオスマン帝国が支配していた地域を、自国から見て「近い東側のエリア」、つまり「近東(near east)」と呼んだ。
その後、ペルシャ湾岸地域の戦略的重要性が高まり、ペルシャ湾(アラブ湾ともいう)からエジプトあたりまでを、オスマン帝国よりも東側ということから、「中東」と呼ぶようになったのである(日本はその東の果てに位置するので「極東」と呼ばれる)。