日本人には分かりにくい「アラブ」「中東」「イスラム」の違いって?
時代やイギリスとの利害関係により、「中東」と呼ばれる地域が広がったり縮んだり、範囲が何度も変わっていく。現在では、東はアフガニスタンやイランから、西は北アフリカの大西洋に面したモロッコやモーリタニアまで、北はトルコ、南はスーダンまで。ただ、この地域に近い宗教や歴史上で深いつながりがある中央アジアを含める場合もある。
こうして見てみると、「中東」の一貫した、正確な定義はないと言えよう。
アラブという言葉が意味するのはアラブ語を話す人々が住む地域だと解説した。ただ、その言葉を発するとき、われわれアラブ人は特有の価値観、およびアイデンティティーを示すさまざまなことが想起される。
これはアラブの人々と深く付き合うためにはぜひ知っておいてほしいことなので、アラブ人にとっての「アラブ」という言葉への想いを述べておきたい。
われわれは無意識のうちに「アラブ」を3つの意味で使っている。
1つめの基本的な意味は、先に述べたように地理的なもの。
2つめは、砂漠で暮らす人々を指す場合に使う。
3つめは、全アラブ諸国の国民を含む意味で、アラブ共同体を指す場合だ。同胞感を言い表す場合に、われわれはアラブという言葉を使う。
国が違っても、相手がアラブ人であるなら兄弟のように接し、お互いに強い親近感が生まれる。アラビア語という共通のコミュニケーションの道具を持っていることで、国籍や宗教を超えてお互いに同胞感を持つ。
アラブでは宗教の位置づけが非常に高く、それをもとに倫理道徳、人生観、家族観や社会規範が形成されていく。たいていの人はまずイスラム教徒である自分を大切にし、次に来るのはアラブ人である自分、そして最後に来るのはサウジ人やエジプト人、シリア人など国民としての自分である(もちろん、皆が必ずしもそうであるとは限らない。例えば、「アラブ人」であるより、優先順位として先に「自国民」としての自分のアイデンティティーを大切に考える人もいる)。アラブでは、この3つのアイデンティティーを基盤に行動パターンと価値観が形成される。
また、「アッサラーム・アライクム」(あなたがたに平安あれ)というアラビア語の基本的な挨拶からも分かるように、アラブ人の考えの特徴の一つは「人を思いやる」であると言えよう。
物理的にも、また文化的にも遠くかけ離れた日本とアラブ世界であるが、同じ東洋という名で結ばれた両世界にはさまざまな共感できるものがあると思う。私はそれを発見して伝えたい。