最新記事

文化遺産

盗み出された文化財を取り戻す闘い...「やったふり」で終わらせるな

DECOLONIZING MUSEUMS

2021年11月18日(木)17時06分
アフメド・トゥエイジ(中東問題アナリスト)

ドイツの考古学者はドイツ・オリエント学会の資金援助を受けて、1899年からバビロンの遺跡を発掘した。当時、オスマン帝国は崩壊しかけた帝政を維持することしか頭になかった。

陶器の装飾品などの発掘品は、石炭の木箱に入れてベルリンに密輸された。イシュタル門は1902年から始まった発掘調査で発見された後、第1次大戦中は発掘が中断され、17年の終戦間際にイラクではなくイギリスが、ドイツに発掘品の国外への持ち出しを許可した。

祖先の歴史と外国で対面する

歴代のイラク政府はイシュタル門を取り戻そうとしてきた。しかし、ナイジェリアの青銅彫刻「ベニン・ブロンズ」や、ギリシャのパルテノン神殿の彫刻「エルギン・マーブル」、エジプトの「ネフェルティティの胸像」など、欧米に略奪された貴重な文化財の返還を要求する国々と同じ状況に直面している。

学者や博物館、さらにはイラク人の一部からも、歴史の至宝は近年の戦争で荒廃したイラクより、ドイツにあるほうが安全だと言われてきた。もっとも、ペルガモン博物館は第2次大戦中にベルリンの空襲で甚大な被害を受けた。バビロンの遺跡が物理的な危険に脅かされるようになったのは、イラク戦争で米軍とポーランド軍が地元を軍事基地として使用して以降のことだ。

「彼らは私たちの歴史なんてどうでもよかった」と、古代遺跡バビロンのツアーガイド、アブ・ザイナブは言う。「戦闘機が離着陸するたびに、歴史的な壁が崩れていった」

米軍の侵攻がイラクの文化遺産に取り返しのつかない損害を与えたことは、さまざまな非政府組織が批判している。米軍が史跡を直接攻撃したとまでは言わないが、侵攻後のデュー・デリジェンス(適正評価)の欠如が略奪を助長したことは明らかだ。世界遺産の周辺に部隊を配置することも重大な過失と言える。

イラク人である私は、2018年にペルガモン博物館でイシュタル門と対面した。ベルリンで祖国の歴史の美しさを前にして、その威厳に畏敬の念を抱きながら、やるせなさに押しつぶされそうだった。

イラク南部で門が解体された跡地を訪れたとき、その失望感はさらに大きくなった。壮大な門の代わりに、中学校の美術の課題作品のようなレプリカが立っていた。こうした考古学の「ディズニーランド化」は、1980年代のイラン・イラク戦争の際にフセインがナショナリズムを高めるために行った。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中