最新記事

文化遺産

盗み出された文化財を取り戻す闘い...「やったふり」で終わらせるな

DECOLONIZING MUSEUMS

2021年11月18日(木)17時06分
アフメド・トゥエイジ(中東問題アナリスト)

「発掘調査」という名目で盗む

さらに事態を悪化させたのは過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭だ。ISは2014年に新アッシリア帝国の首都ニネベ遺跡があるイラク第2の都市モスルを制圧。軍資金を得るために遺跡から遺物を持ち出し、闇ルートで売りさばいた。

これに飛び付いたのは、ホビー・ロビーの社長で聖書博物館の創設者・会長でもある億万長者のスティーブ・グリーンをはじめ、裕福なキリスト教原理主義のアメリカ人だ。

遺物の密輸は厳しく監視されているため、闇の業者はたいがいフェイスブックのマーケットプレイス機能を使って欧米の買い手を見つける。そして当局の目をくらますため偽の書類や鑑定書を付けて国外に送る。

米政府がイラクに返還するのはこうした遺物だ。脱植民地主義にとって、これはささやかな勝利と言っていいが、米司法省の取り組みは不十分だ。確かに司法省は民事訴訟を起こし、盗まれた文化財を押収して返還にこぎ着けた。

だが過去1世紀余りの間にアメリカの博物館に持ち込まれたイラクの重要な文化財はほかにも多数ある。例えばニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵しているバビロニア出土のライオンのレリーフ。ほかにも、イラクや中東諸国から奪われた文化財は数多いが、司法省はそれらには目をつぶったままだ。

バビロニアのイシュタル門がたどった運命は、イラクの歴史の断片が欧米諸国の手に渡り、そのままとらわれている歴史を物語る。

ベルリンのペルガモン博物館には、紀元前575年頃に新バビロニアの王ネブカドネザル2世が建立した巨大な青い門と、それに続く「行列通り」が復元展示されている。これらの至宝は、現在のイラク南部バビル県から持ち出された。アメリカがイラクに侵攻する1世紀前に始まった略奪の戦利品は、「発掘」という名目で世間に受け入れられてきた。

第1次大戦でイギリスがイラクに侵攻した後、イギリスの委任統治下でイラク王国が樹立され、外国人考古学者に有利な法律が制定された。1924年にはイギリスの考古学者で紀行作家のガートルード・ベルが主導した古代文化財の保護法が成立。遺物をイラク国外に持ち出すことが認められ、シカゴ大学やオックスフォード大学、エール大学、そして大英博物館などがその恩恵にあずかった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中