盗み出された文化財を取り戻す闘い...「やったふり」で終わらせるな
DECOLONIZING MUSEUMS
イラクの文化財は世界中で称賛されているが、ほとんどのイラク人は祖先の遺産に触れることができない。ビザの規制は今も厳しく、裕福なイラク人でさえ、自分たちの歴史をその目で見るために欧米諸国に行くことは難しい。
過去数年間、美術館や博物館の脱植民地化の機運は高まっている。大ヒットしたマーベル映画『ブラックパンサー』(18年)でも、アフリカの王国から奪われた武器が、展示されていたロンドンの博物館から強奪される。こうした略奪文化財をめぐって世間の怒りが募るなかで、欧米の美術館や博物館は何とか面目を保とうと躍起になっている。
例えば大英博物館は、「略奪品ばかり」という世間の認識を払拭する取り組みの一環として、さまざまな講演や展示を企画してきた。
18年にはイメージアップを図るべく、略奪品8点をイラクに返還した。とはいうものの、これらの品はエルギン・マーブルなどと違って、本来は大英博物館の所蔵品ではなく、警察がロンドンの美術商から押収したものだったが。
真の「返還」への道のりは遠く
大英博物館はほかにも返還の試みでしくじっている。05年には北米太平洋沿岸の先住民族クワキウトルがポトラッチという儀式に使っていた仮面を(もともとはクワキウトルの人々からカナダ当局が押収したものだったが)カナダに返還したものの、長期貸与という形を取った。
大英博物館と同様に、ロンドンのビクトリア&アルバート美術館も脱植民地主義のやり方を誤った。イギリス軍の遠征時に略奪されたエチオピアの財宝を、貸与という形でなら返還すると申し出たのだ。
1950年代、大英博物館が所蔵するベニン・ブロンズの一部を買い戻すよう、ナイジェリアに迫ったことはよく知られている。これら数百点の青銅彫刻は1897年にイギリス軍が当時ナイジェリアにあったベニン王国を「報復攻撃」した際に遠征部隊が略奪したもので、それを買い戻せと要求するのはおかしな話だ。ベニン・ブロンズはメトロポリタン美術館を含めて、欧米の美術館・博物館や研究機関に散逸している。その返還を求める声は、依然として根強い。
今年9月には、ベニン市の芸術家組合が大英博物館に対し、返還ではなく「交換」を申し出た。自分たちの現代アートの作品を博物館に寄贈する代わりにベニン・ブロンズの一部を返還してほしい、というものだ(10月時点の報道では、博物館側は返還には応じない意向だという)。