最新記事

文化遺産

盗み出された文化財を取り戻す闘い...「やったふり」で終わらせるな

DECOLONIZING MUSEUMS

2021年11月18日(木)17時06分
アフメド・トゥエイジ(中東問題アナリスト)

イラクの文化財は世界中で称賛されているが、ほとんどのイラク人は祖先の遺産に触れることができない。ビザの規制は今も厳しく、裕福なイラク人でさえ、自分たちの歴史をその目で見るために欧米諸国に行くことは難しい。

過去数年間、美術館や博物館の脱植民地化の機運は高まっている。大ヒットしたマーベル映画『ブラックパンサー』(18年)でも、アフリカの王国から奪われた武器が、展示されていたロンドンの博物館から強奪される。こうした略奪文化財をめぐって世間の怒りが募るなかで、欧米の美術館や博物館は何とか面目を保とうと躍起になっている。

例えば大英博物館は、「略奪品ばかり」という世間の認識を払拭する取り組みの一環として、さまざまな講演や展示を企画してきた。

18年にはイメージアップを図るべく、略奪品8点をイラクに返還した。とはいうものの、これらの品はエルギン・マーブルなどと違って、本来は大英博物館の所蔵品ではなく、警察がロンドンの美術商から押収したものだったが。

真の「返還」への道のりは遠く

大英博物館はほかにも返還の試みでしくじっている。05年には北米太平洋沿岸の先住民族クワキウトルがポトラッチという儀式に使っていた仮面を(もともとはクワキウトルの人々からカナダ当局が押収したものだったが)カナダに返還したものの、長期貸与という形を取った。

大英博物館と同様に、ロンドンのビクトリア&アルバート美術館も脱植民地主義のやり方を誤った。イギリス軍の遠征時に略奪されたエチオピアの財宝を、貸与という形でなら返還すると申し出たのだ。

1950年代、大英博物館が所蔵するベニン・ブロンズの一部を買い戻すよう、ナイジェリアに迫ったことはよく知られている。これら数百点の青銅彫刻は1897年にイギリス軍が当時ナイジェリアにあったベニン王国を「報復攻撃」した際に遠征部隊が略奪したもので、それを買い戻せと要求するのはおかしな話だ。ベニン・ブロンズはメトロポリタン美術館を含めて、欧米の美術館・博物館や研究機関に散逸している。その返還を求める声は、依然として根強い。

今年9月には、ベニン市の芸術家組合が大英博物館に対し、返還ではなく「交換」を申し出た。自分たちの現代アートの作品を博物館に寄贈する代わりにベニン・ブロンズの一部を返還してほしい、というものだ(10月時点の報道では、博物館側は返還には応じない意向だという)。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大

ワールド

ロシアの対欧州ガス輸出、パイプライン経由は今年44

ビジネス

スウェーデン中銀、26年中は政策金利を1.75%に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中