なぜ中台の緊張はここまで強まったのか? 台湾情勢を歴史で読み解く

TAIWAN, WHERE HISTORY IS POLITICAL

2021年10月9日(土)09時57分
野嶋剛(ジャーナリスト、大東文化大学特任教授)

台湾側の公表資料によれば、中間線は、北緯27度東経122度を北限として、北緯23度東経118度を南限とし、まさに海峡の真ん中に引かれた一本の線であり、冷戦下での中台関係の固定化の象徴であり、朝鮮半島の38度線の中台関係版である。

海に守られた蒋介石・蒋経国親子の台湾統治は、1949年を起点とすれば蒋経国の死の1988年までおよそ40年間にわたった。

ある意味で、国民党もよく踏ん張った。大陸で蒋介石を悩ませた党派対立を清算。一旦は崩壊した国軍も、日本人軍事顧問団「白団」や米軍顧問団の支援を受けながら全面的に立て直し、質的には人民解放軍をしのぐ近代軍に仕立て直した。

経済建設にも1970年以降は力を入れ、輸出志向型で小回りの利く産業構造をつくり上げた。新興工業経済地域(NIES)の一翼として高い経済成長を成し遂げた。権威主義体制下の政府関与のもと工業化を成し遂げた台湾モデルは、世界から注目を受けることになった。

一方で、世界最長となる戒厳令を敷き、反共を口実に多くの無実の人々を投獄・処刑する白色テロの恐怖政治で台湾社会をコントロール下に置いて、米国政府もその蛮行を黙認した。反共の協力者・蒋介石が必要だったからだ。

過酷な統治が、台湾社会から恨みの目を向けられる国民党の「原罪」となって、今日、党勢を弱める一因になっている。歴史評価として、蒋家の統治をどう位置付けるか、極めて難しい問題だ。

仮定の話にはなるが、国民党がいなければ、台湾は共産化され、中華人民共和国の一部になり、チベットや新疆のような自治区扱いか、あるいは福建省の一部、もしくは台湾省として統治されていたかもしれない。戒厳令の下で多少の犠牲はあっても、共産化よりはましだった、という議論が成り立たないわけではない。一方で、蒋親子の下での民衆への加害は許せないと今も考えている人々が大勢いることも間違いない。

210921P18_TWH_06.jpg

世界最長の戒厳令を敷いた蒋介石(左)・経国(右)親子の統治(中央は介石の妻) HULTON ARCHIVE/GETTY IMAGES

歴代総統への評価は、台湾史の複雑さを物語っている。台湾社会が各種世論調査でほぼ一致して最も高く評価する総統は、李登輝ではなく、蒋経国だ。

蒋経国が執政した1970~80年代は、台湾の高度経済成長期に当たり、いい思い出が多いからだと言われている。それ以前は蒋経国が秘密警察を指揮して弾圧の先頭に立ったことも台湾人は知りつつ、こうした見方をしているのである。

一方、蒋介石の評価は歴代総統の中で常に最下位だ。共産主義から台湾を守った功よりも、過酷な統治で多くの人命を奪った罪を、台湾の人々は記憶しているからだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア、核保有国の衝突リスク警告 英仏がウクライナ

ビジネス

CB消費者信頼感指数、2月は91.2に上昇 雇用に

ワールド

イラン、米との合意へ必要な措置講じる用意 攻撃は「

ワールド

AIで雇用喪失の可能性、利下げでは対応困難=クック
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 6
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 7
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 8
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    ウクライナに強硬姿勢を取るのはハンガリーだけでは…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中