なぜ中台の緊張はここまで強まったのか? 台湾情勢を歴史で読み解く

TAIWAN, WHERE HISTORY IS POLITICAL

2021年10月9日(土)09時57分
野嶋剛(ジャーナリスト、大東文化大学特任教授)

210921P18_TWH_02.jpg

オランダ東インド会社が拠点として築いたゼーランディア城 FROM TOP: UNIVERSAL HISTORY ARCHIVEーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

台湾は活発化する東西交易の中継地として目を付けられた。日本、中国、東南アジアの結節点の洋上に独り浮かぶ台湾島の地政学的優位性は、今日まで、台湾が大国に狙われやすく、「兵家必争の地」となる原因となっている。

台湾に最初に拠点を開いたのは名付け親のポルトガルではなかった。オランダが中国大陸に面した台南にゼーランディア城を築き、スペインも台湾北部の淡水にサント・ドミンゴ城を造って北部一帯を支配した。のちにオランダがスペインを追い出して台湾の支配者となった。どちらの城も、台湾では現在古跡として整備されている。

そのオランダを台湾から駆逐したのが、日本でもよく知られた鄭成功(ていせいこう)である。中国人海賊と日本人女性の血を引くこの若者は、落ち目の明朝再興を願って台湾を拠点に清朝勢力に対抗した。鄭成功の死去後、台湾は清朝の影響下に置かれた。スペイン、オランダ、鄭成功、清朝と目まぐるしく支配者が変わったのは、全て17世紀の出来事だった。

そして、大陸王朝が台湾を「領土」としたのはここからであり、「いにしえの時代から中国のものだった」との中国の主張は歴史的事実とは言い難い。

210921P18_TWH_03.jpg

17世紀に鄭成功がオランダを駆逐し清朝に対抗 ALAMY/AFLO

この頃から台湾への漢人移民が本格化する。対岸の福建から閩南(びんなん)人が、広東からは客家(はっか)人が、農業や商業を営むために流入した。

現在の台湾の人口構成上、「4大グループ」と呼ばれる閩南人、客家人、(1949年以降にやって来た)外省人、先住民族(アミ族、パイワン族など16グループが公式認定)の中で、7割強を占める閩南人と1割強を占める客家の起源はここにある。台湾の歴史上最大級の人口爆発がこの時期に起きたのである。

清朝に挑戦した日本

当時の清朝は、台湾をそこまで真剣に経営する気はなかった。文化的に立ち遅れた地を意味する「化外の地」、伝染病がはびこる地を意味する「瘴癘(しょうれい)の地」などと呼んで台湾を恐れ、福建省の支部である「府」を置くのみで支配は限定的だった。

清朝による台湾統治の姿勢をよく示すのが「土牛線」あるいは「土牛溝」と呼ばれる境界線だ。漢人と先住民との衝突が続き、清朝政府は、西側の平地は漢人の縄張りだが東側の山地に漢人は立ち入らないこととし、その境界に溝まで掘った。掘り出した土で造った土塁が牛の背に見えたことから「土牛」の名が付いた。台湾の西半分しか記載されていない当時の奇妙な地図が残っている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豪BHP、新CEOに米州責任者クレイグ氏 7月就任

ビジネス

トヨタが6年連続で満額回答、賃上げ・賞与とも 26

ビジネス

サムスン、今年の半導体需要は堅調に推移へ AIが寄

ワールド

イラン、クラスター弾でテルアビブ攻撃 ラリジャニ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在の価値でどれくらい? 誰が何のために埋めた?
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 6
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 7
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 8
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 9
    「目のやり場に困る...」グウィネス・パルトロウの「…
  • 10
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 8
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中