「新・日英同盟」の始まりを告げる英空母「クイーン・エリザベス」来航が残した宿題
そこで、航空戦力を補完するためにとられた苦肉の策が米軍との「相互交換性(Interchangeability)」であった。
これまで西側の同盟国の軍隊は互いの交流を深め、共同の作戦能力を獲得することを目的とした「相互運用性(Interoperability)」の向上に努めてきた。それに対して、「相互交換性」は、相互運用性をさらに拡大して、同盟国が互いに保有する装備や兵士を融通し合い、戦力を補完し合うという効率的な軍隊の運用方法であり、NATOが近年検討しているものだ。
つまり、米国本土から派遣された米海兵隊のF35Bの部隊は相互交換性を実現するため、言い換えれば英国の航空戦力の穴を埋めるために、英国軍の指揮下で空母艦載機として活動しているのである。実際の作戦任務で相互交換性が試されるのはこれが初めてであり、「クイーン・エリザベス」のアジアへの展開は相互交換性の初めての実証実験の場と言えよう。
早期警戒能力
今回の展開にあたってもう一つの重要な実験は、空からの脅威に対処する早期警戒能力の向上である。一般的に言って、海軍部隊にとっての脅威は戦闘機やミサイルなど空からの脅威と潜水艦による水中からの脅威、それに水上艦による脅威の三つに大別される。
このうち、空からの脅威に対しては、米国では空母に早期警戒機を搭載し、艦隊の上空に早期警戒機を配置することによって、水平線の彼方から接近する脅威に対処している。ところが、英国の空母は固定翼機を発進させるカタパルトを装備していないため、固定翼の早期警戒機を搭載することができない。
そのため、1982年のフォークランド紛争での英国海軍の艦隊は早期警戒能力が十分ではなく、ミサイル攻撃を受けて駆逐艦一隻を失った。
それ以来、英国海軍はヘリコプターに早期警戒用のレーダーを載せることによって対処してきた。特に、「クイーン・エリザベス」の運用にあたっては、搭載しているヘリコプター「マーリン」に装備するため「クロウズネスト」と呼ばれる最新型の早期警戒システムを開発し、運用する予定だった。
ところが、「クロウズネスト」は開発段階で技術上の問題に直面したため、配備が大幅に遅れ、運用の開始予定も2021年9月にまでずれ込んでしまった。
それでは「クイーン・エリザベス」のアジア展開に間に合わないため、軍事産業はなんとか間に合わせようと初期のシステムを急きょ作り上げ、出港直前の2021年4月に納入したのである。したがって、「クロウズネスト」は配備されたとはいえ、まだ試験運用の段階にある。
このように「クイーン・エリザベス」は完全な作戦能力を保有しないまま日本へ向けた長い航海に臨んだのであり、逆に言えば、英国はそうまでしてインド太平洋への関与や日本との関係の強化を重視しているのである。