「新・日英同盟」の始まりを告げる英空母「クイーン・エリザベス」来航が残した宿題
日本の責任と支援
英国のウォレス国防相は今年7月、年内にインド太平洋海域に哨戒艦2隻を恒常的に展開させ、数年以内に沿岸即応部隊を配備する計画であることを発表した。日英の安全保障協力が深まるにつれ、今後、英国海軍の艦艇が日本を訪問する機会も珍しくなくなるだろう。
それでは、日本はインド太平洋で活動する英国の艦隊や部隊に、今後どのような支援を与えるべきだろうか。
それは簡単に言えば、英国に欠けているものを提供することである。同盟というのは元来足りないものを補い合う関係であり、空母「クイーン・エリザベス」に載せる艦載機の不足分を補うために米海兵隊が艦載機を英国に提供したのはその一例である。
日本ができる支援策として次の二点を強調したい。
①ホストネーションサポート
英国は海軍部隊の長期展開にあたって、インド太平洋の各地域で物資の補給を受けたり乗組員が休息できる寄港地を探している。具体的にはブルネイやシンガポール、オーストラリアのような英連邦に所属する国の港を検討している。
しかし、それとは別に英国の艦隊を恒常的に支援する強力なホスト国も必要であり、そのための拠点として、補給能力や技術力などの点で最もふさわしいのが日本の横須賀、佐世保などであろう。
日英間には、すでにACSA(物品役務相互提供協定)が結ばれており、軍同士では物資の補給が自由にできるようになっている。
一方、軍同士が互いの国を訪問した際、双方の法的地位を定めた地位協定はまだ結ばれていない。現在交渉中のRAA(円滑化協定)を速やかに締結して、日英の軍事的交流や部隊の訪問を恒常化できる体制を作ることが重要だろう。
②F35戦闘機の整備提供
実は英国が日本に期待しているのが、空母艦載機のF35Bの整備を日本で行うことである。欧米諸国やオーストラリア、日本、シンガポール、韓国など西側諸国が保有を進めているF35戦闘機は他の戦闘機がそうであるように、一定の時間が経過すると大規模な整備、点検作業を受けなくてはならない。
特にF35は秘匿性が高いことから、保有国が勝手に分解したり、改修したりすることはできない。そのため、米国政府は米国本土とそれ以外の3カ国に、F35の国際整備拠点を設けて、F35の分解や整備、改修、ソフトの入れ替えなどはすべてこの拠点に持ち込んで行うことになっている。
そして、東アジアで唯一、整備拠点と指定されたのが、日本の愛知県豊山町の三菱重工業小牧南工場である。ここでは日本の航空自衛隊が保有するF35だけでなく、アジア地域に展開している米軍のすべてのF35の機体の整備を受け持っており、近い将来、200機近いF35の機体の管理がここで行われることになる。
英国が期待しているのは、この工場で艦載機の整備を受けることであり、将来、もし英国から求めがあれば日本はこれを歓迎すべきである。
日本には今後、アジアの大国として英国と協力し合いながら地域に同盟の傘を拡げ、インド太平洋を舞台に新しい国際秩序の構築を進めていく責任がある。新しい日英同盟の構築はそのための出発点に過ぎず、空母「クイーン・エリザベス」の来航はその第一歩にすぎない。すべてはこれからである。
『復活!日英同盟――インド太平洋時代の幕開け』
秋元千明 著
CCCメディアハウス
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[筆者]
秋元千明(あきもと・ちあき)
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)日本特別代表。
早稲田大学卒業後、NHK 入局。30 年以上にわたり、軍事・安全保障専門の国際記者、解説委員を務める。東西軍備管理問題、湾岸戦争、ユーゴスラビア紛争、北朝鮮核問題、同時多発テロ、イラク戦争など、豊富な取材経験を持つ。一方、RUSI では1992 年に客員研究員として在籍した後、2009 年、日本人として初めてアソシエイト・フェローに指名された。2012 年、RUSI Japan の設立に伴い、NHKを退職、所長に就任。2019年、RUSI日本特別代表に就任。日英の安全保障コミュニティーに幅広い人脈があり、両国の専門家に交流の場を提供している。大阪大学大学院招聘教授、拓殖大学大学院非常勤講師を兼任する。著書に『戦略の地政学』(ウェッジ)、『復活!日英同盟――インド太平洋時代の幕開け』(CCCメディアハウス)等。