最新記事

米政治

政争に明け暮れる政治家に仕事をさせるには、「利益誘導型」政治が有効だ

A RARE BIPARTISAN TRIUMPH

2021年9月8日(水)11時42分
浜田宏一(元内閣官房参与、米エール大学名誉教授)
米議会

米上院はインフラ投資法案を69対30で可決した(8月10日) U.S. SENATE POOL TVーREUTERS

<政党間で深く分断された米政界だが、政治の麻痺状態を解消するためには利益誘導型政治「ポークバレル」も正当化される>

米上院で先頃、1兆ドル規模のインフラ投資法案が可決された。分断化が著しいこの時代に、与党・民主党に加えて野党・共和党の一部議員が支持に回り、賛成69票、反対30票という超党派の合意が成立した。この結果は、超党派合意の実現には何が必要かを考える格好のケーススタディーとなる。

アメリカにおける超党派合意の歴史は古い。1787年の憲法制定会議での連邦議会議員数に関する「コネティカット妥協案」、1965年にジョンソン政権が推し進めた「偉大な社会」計画、90年に成立した米国身体障害者法......。

だが現在は二大政党間に深い分断があり、党派を超えて票を投じる議員はめったにいない。気候変動や大統領選不正問題への対応からも分かるように、両党は別の世界に生きているかのようだ。超党派の票を投じれば、裏切りと見なされかねない。

現代政治学の基本的な前提の1つは「選挙民は合理的に行動する」というものだ。簡単に言えば、人は自分の立場が悪くなるような動きを始めたり、そこに参加したり、支持したりしない。そのため超党派合意が可能な政策は、対立する両者の権益を同時に強化するものに限られる。

一般的に、アメリカの二大政党は何を求めているのか。共和党は制約なしの競争を支持し、民主党は格差是正と弱者保護のためには公的介入が不可欠と考える。

だから公的インフラへの投資は、民主党にとっては大義と一致する。一方の共和党は減税政策に傾き、社会保障の抑制を唱えがちだが、選挙民が道路やインターネットなどの公的インフラを必要とすることは理解している。

社会保障に積極的でなくとも、経済は動かしたいし、有権者の票は失いたくない。そのためには一定の基本的な需要を満たさなくてはならない。

「リーダーシップの黒字」

この点が、政治学者のジョン・コニーベアの言う「リーダーシップの黒字」という概念につながる。他候補としのぎを削り選出された指導者は「選挙民に対し課税、寄付、購入といった負担を差し引いた上で選挙で約束した黒字や利益を最大化するため、公共財を提供する」というものだ。

共和党は野党の立場から、将来世代の税負担を増すものとして財政赤字の拡大に懸念を示す。だが、そんな考え方で縛ろうとしても無理がある。標準的な経済理論ですら、将来世代の暮らしが依拠するのは前の世代から引き継ぐ国家資源全体であり、そこから税負担を差し引いたものではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中