神は6日で世界を造ったとの「真実」を理解する意味...理不尽な世界に対峙する「神学」の力

2021年9月2日(木)12時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

美しい秋の空がある。太陽の光が地球を取り巻く薄い大気の層を通過し、それが人間の眼球の視神経を刺激して......、という「事実」よりも、「深く静まり穏やかに眠る」という「真実」のほうが、秋空の美しさを如実に表現してくれるのではないか。私が言いたいのはそういうことです。

聖書の世界は、「事実」の世界よりも「真実」の世界に近いのではないでしょうか。宗教と信仰の世界は、もちろん「事実」の世界とも関わりがあります。しかし、それ以上に「真実」の世界と関連するものです。

創世記1章から11章までの物語は、宇宙と人間の起源、罪と疎外の問題、諸民族の由来、文明の始まりなど、世界の根本的な状況を描いています。これは時空を超えた人間の根本的な状況を説明するものであるため、「原初史(Urgeschichte)」と呼ばれています。歴史以前の物語で、特に、「真実の世界」の側面が強いという意味です。

このように、聖書が語ることは、科学的事実とは次元が異なる、世界と人間の根本的な状況である、と解釈すれば、聖書と科学は必ずしも対立する関係にはなりません。

遠藤: 「真実の世界」は見えるものでもなければ、触れることができるものでもない。ただの感情で説明できるものではないのですか。先生はクリスチャンだから、聖書を美化しすぎではないだろうか。

■感情は信頼に値しないのか?――世界は愛に満ちている

教授: そうかもしれませんね。私は聖書が好きですから。

私が言う「真実の世界」を、遠藤さんが「感情の世界」と呼ぶのであれば、それでよいと思います。しかし、「感情の世界」という呼び方には、ある種の含みがありますよね。感情は信頼に値しない、だとか、感情は何かを信じる根拠にはなり得ない、だとか。でも、人間の感情とはそんなに価値や意味がないものなのでしょうか? 

十八〜十九世紀ドイツのプロテスタント神学者であったシュライエルマッハー(Friedrich Ernst Daniel Schleiermacher:1768-1834)は「近代神学の父」と呼ばれる人物です。彼は宗教の本質を人間の神に対する「絶対依存の感情」に求めました。

私は彼の宗教論に全面的に賛成しているわけではありません。しかし、人間に感情や直観がなければ、宗教は生まれなかったという意見には同意します。

岡田: 確かにキリスト教でもっとも大切にすることは「アガペー」の愛で、愛は感情ですね。(略)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国、北朝鮮に軍事境界線に関する協議を提案 衝突リ

ワールド

バングラデシュのハシナ前首相に死刑判決、昨年のデモ

ワールド

中国、G20での高市首相との会談拒否 台湾発言を問

ワールド

インタビュー:経済対策、補正で20兆円必要 1月利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中