最新記事

アフガニスタン

まるで敗戦直後の日本軍を奪い合う中共軍──米大使館存続望むタリバン

2021年8月29日(日)12時37分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

その中で最も注目すべきは、1945年9月末に中共軍に捕捉された関東軍第2航空軍・第101教育飛行団・第4練成飛行隊300余名と軍用機数十機だ。

東北民主聯軍総部(中共側)の林彪(りんぴょう)や彭真(ほうしん)は、第4練成飛行隊の隊長だった林弥一郎(少佐)と直接交渉し、中共軍の航空学校創設のために協力してほしいと頭を下げた。

というのも、当時中共中央は航空学校も飛行場も持っていなかったからだ。毛沢東は9月に入ると東北民主聯軍総部に航空学校の創立を急ぐよう指令を出した。しかし教官となるべき人材がいない。そこで目をつけたのが元日本軍航空関係者だったのである。

元関東軍として当時遼寧省にいた林隊長らはシベリヤ送りを逃れ、「捕虜」としてでなく「教官」としての扱いをするのであればということなどを条件に、中共側の申し入れを受け入れた。こうして1946年3月1日に、中共の「東北民主聯軍航空学校」が誕生した。中共側の空軍学校第一号だ(詳細は拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』)。

中華人民共和国誕生後の1949年末には、さらに6ヵ所の航空学校が開校され、こんにちの中国の空軍の基礎を形成している。

タリバンの動きは1940年代の毛沢東が率いていた中共軍の状況によく似ている。

中国大使館が居座り続けることへの危惧

いまアフガニスタンには中国大使館やロシア大使館を始め、いくつかのイスラム系諸国の大使館が残っている。トルコ大使館も空港に遷していたが、元の場所に戻そうとしているという噂が、英文のSNSなどで流れている。

となると、ひょっとしたら、アメリカは大使館を存続させるかもしれない。

タリバンは、いかなる国の軍隊も残らないでほしいと望む一方で、できるだけ多くの大使館が存続してほしいと強く望んでいる。国家として承認してほしいからだろう。

アメリカはこのたびも、アフガニスタンとパキスタンとの国境地帯から無人機を飛ばしてテロ組織の主犯を殺害したようだ。タリバンが「テロの主犯が誰で、どこにいるか」という詳細情報をアメリカに渡したのだろう。そうでなければ、あれほど短時間に正確に一個人を絞って殺害できるはずがない。

バイデン大統領は「何としてもテロの犯人に償わせてやる!」と強気だが、アメリカの最後の名誉を保つためにもタリバンとの協力が必要だという、とんでもないところに追い詰められていることだろう。あの強気の発言の裏には、水面下におけるタリバンとの連携があるにちがいない。バイデン退陣への声が高まる中で、タリバンと協力してテロ撲滅に動くことは、バイデンにとっても、案外に悪い選択ではないのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ルクオイル株凍結で損失の米投資家に資産売却で返済、

ビジネス

英中銀当局者、金利見通し巡り異なる見解 来週の会合

ビジネス

ネトフリのワーナー買収、動画配信加入者が差し止め求

ワールド

中ロの軍用機が日本周辺を共同飛行、「重大な懸念」と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中