最新記事

中国

中国金メダル38でもなお「発展途上国」が鮮明に

2021年8月11日(水)19時03分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

したがって若者の「将来への希望」などがG7とは全く異なってくる。

大学進学こそが未来の夢を叶える選択

中国の若者にとっては、「大学進学」こそが未来の夢を叶える選択であって、「将来はスポーツ選手になりたい」などという無邪気な夢を語る小学生や中学生は、基本的にいない。

そもそも大学進学があまりに厳しいために、週3回あることになっている中学までの体育の授業も実際上は自習などの形にして、体育の授業は実施されていない所が多い。

これに関して国家教育部(日本の昔の文部省に相当)は、2019年11月に2018年度の調査結果として「小学校では30.8%が、中学では48.1%が完全な形での体育の授業を行っていない」という実態調査結果を発表したほどだ

8月9日のコラム<北京早くも東京五輪を利用し「送夏迎冬」――北京冬季五輪につなげ!>に書いた≪健康中国2030計画≫では、常に何らかの形でスポーツに参加している人口目標を「2020年:4.35億人」、「2030年:5.3億人」としている。

中国政府は「既に4億人に達した」と言っているが、この4億人の中には小学校や中学校あるいは高校などで「体育の授業に参加している」(ことになっている)生徒数や定年退職した高齢者の公園におけるトレーニング、そして何よりも軍人が入っており、実態とはかなり掛け離れているのである。

したがって中国では、(曲芸的な)特殊な才能を持っている「一個人」が自分の未来をかけてスポーツの道を選ぶことはあっても、集団競技の人材を揃えるほどの多くの若者が出世のためにスポーツを選ぶことはなく、親も絶対にそのような危ない不確定な未来への道を選択することを許さないという状況から、まだ脱していないと言える。

かくして、中国はまだ発展途上国であることを、この金メダルの種目が鮮明に浮かび上がらせてくれた。

逆に言えば、中国人民全体としてのスポーツへの共感とか興味は薄く、オリンピックの時だけ金メダル獲得数に強い興味を持つので、そうでなくともナショナリズムを掻き立てるオリンピックが、ネットでのみ騒がれたり罵倒されたりする傾向にある。

日本はそれに比べて、一人当たりGDPが少なくはない「先進国」にぎりぎり属するので、少なからぬ国民がスポーツ競技に興味を持っているため、「コロナ感染から目をそらすために、国を挙げてオリンピック報道に全力を注ぐ」というような「策略」が可能なのだということも、同時に見えてきた次第だ。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、25年に連邦職員31.7万人削減 従

ワールド

米、EUにデジタル規制見直し要求 鉄鋼関税引き下げ

ビジネス

情報BOX:大手銀、米12月利下げ巡り見解分かれる

ビジネス

ノボの治験、アルツハイマー病への効果示されず 経営
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中