中国金メダル38でもなお「発展途上国」が鮮明に
したがって若者の「将来への希望」などがG7とは全く異なってくる。
大学進学こそが未来の夢を叶える選択
中国の若者にとっては、「大学進学」こそが未来の夢を叶える選択であって、「将来はスポーツ選手になりたい」などという無邪気な夢を語る小学生や中学生は、基本的にいない。
そもそも大学進学があまりに厳しいために、週3回あることになっている中学までの体育の授業も実際上は自習などの形にして、体育の授業は実施されていない所が多い。
これに関して国家教育部(日本の昔の文部省に相当)は、2019年11月に2018年度の調査結果として「小学校では30.8%が、中学では48.1%が完全な形での体育の授業を行っていない」という実態調査結果を発表したほどだ。
8月9日のコラム<北京早くも東京五輪を利用し「送夏迎冬」――北京冬季五輪につなげ!>に書いた≪健康中国2030計画≫では、常に何らかの形でスポーツに参加している人口目標を「2020年:4.35億人」、「2030年:5.3億人」としている。
中国政府は「既に4億人に達した」と言っているが、この4億人の中には小学校や中学校あるいは高校などで「体育の授業に参加している」(ことになっている)生徒数や定年退職した高齢者の公園におけるトレーニング、そして何よりも軍人が入っており、実態とはかなり掛け離れているのである。
したがって中国では、(曲芸的な)特殊な才能を持っている「一個人」が自分の未来をかけてスポーツの道を選ぶことはあっても、集団競技の人材を揃えるほどの多くの若者が出世のためにスポーツを選ぶことはなく、親も絶対にそのような危ない不確定な未来への道を選択することを許さないという状況から、まだ脱していないと言える。
かくして、中国はまだ発展途上国であることを、この金メダルの種目が鮮明に浮かび上がらせてくれた。
逆に言えば、中国人民全体としてのスポーツへの共感とか興味は薄く、オリンピックの時だけ金メダル獲得数に強い興味を持つので、そうでなくともナショナリズムを掻き立てるオリンピックが、ネットでのみ騒がれたり罵倒されたりする傾向にある。
日本はそれに比べて、一人当たりGDPが少なくはない「先進国」にぎりぎり属するので、少なからぬ国民がスポーツ競技に興味を持っているため、「コロナ感染から目をそらすために、国を挙げてオリンピック報道に全力を注ぐ」というような「策略」が可能なのだということも、同時に見えてきた次第だ。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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