最新記事

BOOKS

権力を私物化する政治家が「保守」派とは思えない──に納得した

2021年7月29日(木)13時50分
印南敦史(作家、書評家)

そして権力者の側も、「国民はすぐに忘れる」とたかをくくっている。悪循環以外のなにものでもなく、だからこそ、個々人がしっかりとした視点を持つべきではないかと感じる。

「(政治家は)いつもああだよね」と苦笑するのではなく、「"いつもああ"であることは道義的に間違っているのではないか?」という判断基準を個々人が持つべきではないかということだ。

バカにされた主権者に残された唯一の手段

著者は官僚の口から頻繁に出てくる「記憶にない」という言葉に焦点を当てる。「モリ・カケ・桜・東北新社」などの疑惑が持ち上がった際にも何度となく連発されたあれだ。

国際的に見ても優秀であるはずの日本の官僚、なかでもエリートコースを歩んで高い地位に就いた人々が、日ごろの理路整然とした話しぶりから一転して「記憶にございません」を乱発する姿に唖然とさせられてしまうと著者は言う。

だが、当然ながらそこには明確な理由がある。


 議院証言法は、国会で偽証をした者は院が刑事告発できると定めている。その「偽証」とは、事実と異なることを故意に(つまり「わざと」)証言することである。だから、不実の証言をしたことが後でバレてしまった場合でも、それは、「記憶になかったのだからでわざとではない」ので「故意がなく」、有罪にはならない......という理屈になる。
 だから、普段は、議場で何を質問されても、正確な知識の裏付けをもって明確に回答する習慣が身に付いている高級官僚が、自らの「不正」に関わる質問に対しては、途端に記憶喪失になってしまうのである。(146~147ページより)

つまり官僚が公式の場で「記憶する限りでは」などと前置きして曖昧な発言を始めたら、それは「悪事を隠している」のだと評価して間違いないということだ。

確かに、そういう視点を持つことは大切だと私も思う。ただし私たちには、たとえ嘘を見抜いたとしてもどうすることもできない。逮捕して身柄を拘束し、尋問するというような権限を持っていないのだから。

嘘をついた人が堂々と逃げてしまえるのはそのせいだ。それがわかっているからこそ、「言っても無駄」とばかりに政治や官僚に鋭い目を向けることを「どうせ意味のないこと」だと感じてしまう人がいたとしても不思議ではない。

だが、それではやはり悔しい――などと思わない人だっているだろうが、少なくとも私は悔しい。

では、どうしたらいいのだろう?

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、台湾への7億ドル相当の防空ミサイルシステム売却

ワールド

日中局長協議、反論し適切な対応強く求めた=官房長官

ワールド

マスク氏、ホワイトハウス夕食会に出席 トランプ氏と

ビジネス

米エクソン、ルクオイルの海外資産買収を検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中