最新記事

BOOKS

権力を私物化する政治家が「保守」派とは思えない──に納得した

2021年7月29日(木)13時50分
印南敦史(作家、書評家)
『「人権」がわからない政治家たち』

Newsweek Japan

<「真の保守派こそ、誇りをもっていまの政治を叱り飛ばすべき」と主張する憲法学者の著書が教えてくれること>

『「人権」がわからない政治家たち』(小林節・著、日刊現代)は、2017年10月から2021年3月まで『日刊ゲンダイ』に掲載されたコラム「ここがおかしい 小林節が斬る!」の中から主要原稿を抜粋し、加筆・修正してまとめた書籍。

「現実の政治的な課題について、民主主義と人権を守る」という観点から評価を加え、解決策を提案しているのだという。

などと聞くと難しそうにも思えてしまうが、決して堅苦しいものではない。それどころか、タブロイド紙の連載が元になっているだけあって内容はいたって簡潔だ。

とはいえ、そもそも著者は"リベラルな視点を持つ保守派"として知られる憲法学者なのである。そのような立場を軸として書かれた本書がただ読みやすいだけで終わるはずもなく、「保守」についての持論を投げかけた「はじめに」から、強いインパクトを投げかけてくる。


 私の思いは、野党の支持者だけでなく、真の「保守」を自認する人にこそ問題に気づいてほしいということである。本来の「保守」は、正しい歴史認識を持って、よきものを守り発展させていく立場のはずである。そういう意味で、いま、権力を私物化して大衆の幸福に対する責任感を無くした政治家が「保守」派だとは思えない。私の知る保守派は、知的で礼儀正しく、正義感と他者への思い遣りがあった。だから、真の「保守」派の人々こそ、誇りを持っていまの政治を叱り飛ばすべきである。(「はじめに......いまの自民党はもはや『保守』ですらない」より)

私はリベラルを自負しているが、現代の「保守」に対する不快感をうまく言語化できずにいたことも否定できない。

だが著者はこの「はじめに」で記した主張によって、私の内部にあったモヤモヤをうまく言い表してくれた。「保守かリベラルか」という以前に納得できたのは、そのせいかもしれない。


「モリ・カケ・桜・東北新社」など、一連の政治スキャンダルはもはや度を超えている。これは国民全体の公共財が一部権力者の私物にされていることに他ならず、大多数の国民は明らかに怒っている。しかし、それでいて有権者のほぼ半数が選挙で棄権してしまっていることも事実で、それが権力者を増長させ、公僕である官僚までが権力者の下僕に成り下がった感がある。(「はじめに......いまの自民党はもはや『保守』ですらない」より)

まったくそのとおりであり、そんな状況を野放しにしてしまっている私たちも大いに反省すべきである。

例えば、あれだけ世間を騒がせた「モリ・カケ・桜・東北新社」問題にしても、いつの間にか"過去の出来事"として忘れ去られようとしているのではないだろうか?

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中