最新記事

スポーツ

バイルズの棄権で米女子体操が得た金メダルより大切なもの

Jordan Chiles Applauds Simone Biles, Silver Medals Are 'Because of Who She is as a Person'

2021年7月28日(水)18時50分
マギー・ジャイル
銀メダルで喜ぶバイルズ

バイルズ(右)の棄権で銀メダルに落ちたけど米女子体操チームは大喜び Mike Blake-YouTube - REUTERS

<心の健康を保つためにみずから団体決勝の演技を棄権したシモーネ・バイルズの大きな決断は、体操だけでなくスポーツ界に貴重な変化をもたらすかもしれない>

東京五輪の体操女子団体で準優勝したアメリカのジョーダン・チャイルズ選手はシモーネ・バイルズ選手を称え、アメリカチームの勝利はバイルズのおかげだと語った、とAP通信は伝えた。

「このメダルは間違いなく、バイルズのもの」と、チャイルズは言った。「もし彼女がいなかったら、私たちはこの場にいなかったし、銀メダリストにもなれなかった」

「あなたはすばらしい」と、チャイルズはバイルズを称えた。「すべてはあなたのおかげ」

それはおかしい。体操界の大スターで金メダルの期待がかかったバイルズは、団体決勝を1種目で棄権した。アメリカが銀に甘んじることになったのもそのためだ。だがチャイルズは喜んでいる。バイルズが、女子体操界の未来のためにタブーを破ってくれたからだ。自分が壊れることを知りながらも、メダルのために演技を続けなくていいという前例を作ってくれたからだ。

以下にAP通信による報道を引用する。

シモーネ・バイルズは、アメリカ体操界のトップ選手として、そして今回の大会でもスターになるべく東京に到着した。プレッシャーに対する用意はできていると確信していたし、大きな期待という重荷を背負う覚悟もあると思っていた。

ただ、27日の夜に女子体操団体の決勝が近づくにつれて、何かおかしいという感じがした。世界の体操史上最も偉大な選手と目されているバイルズは、それが何かを知っていた。

以前は何度も、頭に忍び込んだ疑念を押し殺した。でも今回バイルズは、これ以上続けるのは無理だと判断した。ここで終わりにしよう。少なくとも今は。

自分の心と体を守る

アメリカ女子体操界のスターは団体決勝の1種目を終えたところで試合を棄権し、ロシア・オリンピック委員会(以下、ロシア)に、約30年ぶりの優勝を譲り渡した。

そしてアメリカ女子体操チームの残ったメンバー、ジョーダン・チャイルズ、スニサ・リー、グレース・マッカラムの3人が、アメリカに銀メダルをもたらした。白いスウェットスーツを着たバイルズは彼女たちの演技を横から応援した。今回の決断は、バイルズを変えた。それだけでなく、体操というスポーツにも新たな変化をもたらすだろう。

「私たちは自分のことに注意を向けなくてはならない。結局のところ私たちは人間なのだから」と、バイルズは語った。「やみくもに外の世界に出て、求められていることをするという姿勢ではなく、自分の心と体を守らなければならない」

リーは段違い平行棒でバイルズをもしのぐ素晴らしい演技を披露し、それに刺激を受けたアメリカチームは、3種目が終わった時点で1位に0.8ポイント差のところまで詰め寄った。だがロシアは床の演技を堅実にまとめた。そして21歳のアンジェリーナ・メルニコワの得点が、1992年のバルセロナ五輪以来約30年ぶりの金メダルを確実にした時、ロシアチームは歓喜に沸いた。

「不可能なことが可能になった」と、メルニコワは言った。

だが、番狂わせはこれだけではなさそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、党大会で軍備目標再設定へ 前回目標は一部の

ワールド

米イスラエル、イラン産原油輸出への圧力強化で合意 

ワールド

訂正-焦点:高値の提案も拒否可能、経産省が買収指針

ビジネス

米当局、加工原料の安全性審査制度を検討へ 厚生長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 4
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 10
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中