バイルズの棄権で米女子体操が得た金メダルより大切なもの
Jordan Chiles Applauds Simone Biles, Silver Medals Are 'Because of Who She is as a Person'
5年前のリオ五輪でバイルズとアメリカチームが見事な演技を披露し、金メダルを獲得して以来、体操界は大きな変化を経験した。従順、規律、沈黙が才能と芸術性と同じくらい重要だと考えられていたスポーツの根本が揺らいだ。
バイルズは、アスリートの権利と精神的健康の重要性を率直に訴えるオピニオンリーダーとなった。以前は、人々が自分に期待しているからという理由で、自分としては不本意なことをやり続けたことが何度もあった。今はもう、そんなことはしない。バイルズが明らかにしてみせた姿勢は、東京五輪で獲得するかもしれないメダルの色を越えて、はるかに人々の心に響くかもしれない。
精神の健康を守るために全仏オープンを棄権した大坂なおみをはじめ、有名なスポーツ選手がみずからメンタルヘルスの悩みを公表するケースが相次いでいる。今回の行動で、バイルズもその1人となった。かつてはスポーツ選手が精神面での問題を告白することはタブーだったが、今ではかなり受け入れられるようになった。
米オリンピック・パラリンピック委員会のサラ・ハーシュランド最高経営責任者(CEO)は、バイルズが「自分の精神の健康を何よりも」優先したことに拍手を送り、組織として全面的に支援すると約束した。米女子体操協会の副会長は、バイルズの行為を「信じられないほど私心のない行動」と評した。
メダルより大切なこと
7月25日に行われた予選でバイルズの演技は珍しく精彩を欠き、アメリカチームはロシアにリードを許した。翌26日、バイルズは自分の肩に世界がのしかかる重さを感じる、とソーシャルメディアに投稿した。
ストレスがバイルズの練習に影響を与えていた。自信にも影響を与えた。そして、バイルズが跳馬に向かって走り出したとき、ついにパフォーマンスの面でも足を引っ張った。
団体決勝の日、バイルズは跳馬で後転跳び後方伸身宙返りに2回半ひねりを加える「アマナール」という技を予定していた。だがひねりは1回半になり、着地で大きく前方に飛び出してしまった。演技後、バイルズは椅子に座わり、アメリカのチームドクターマルシア・ファウスティンと話した。その後、段違い平行棒に移動するアメリカの選手団と別れ、会場を後にした。
数分後に会場に戻ったバイルズはチームメイトを抱きしめ、ハンドグリップを脱いだ。そんなふうに突然に、バイルズは演技を終えた。
「こういう形で棄権するバイルズを見るのは、悲しい。私にとって、このオリンピックは、ある意味バイルズのものだから」と、チームメイトのリーは振り返る。
バイルズは29日の個人総合決勝でオリンピック2連覇に挑むことになっている。また、大会の後半に行われる種目別決勝の4種目に出場資格がある。残りの試合に出るかどうかは、28日に落ち着いて考えてから決める、とバイルズは語った。
団体の優勝はロシアにさらわれたが、チャイルズをはじめアメリカチームの選手たちはそれほど気にしていない。金メダルは消えたかもしれないが、そのかわり、もっと重要なことが起きたかもしれない。それは選手たちにとって、決して悪くないことだろう。