最新記事

香港

香港は中国で最も腐敗した都市になる

KILLING HONG KONG

2021年7月16日(金)21時00分
許田波(ビクトリア・ホイ、米ノートルダム大学政治学准教授)

magSR20210716killinghongkong-chartB.png

TYRONE SIU-REUTERS

香港の立法会では、もともと直接選挙の対象となるのは議席の半数だけだった。しかし、それでも民主派が過半数を制する可能性が高まっていた。

そこで当局側は、まず民主派の候補者12人の立候補資格を剝奪した。さらに選挙日を1年延期し、今年に入ると民主派の有力候補全員を逮捕した(今年3月末にはさらに3カ月の延期を決めた)。

例えばデパート経営者の林景楠(マイク・ラム)は今年4月に国安法違反の罪に問われ、些細な理由で40万香港ドル相当の商品を没収された。ネットラジオの司会者として人気を集めた活動家の尹耀昇と元ラジオ司会者の譚得志は、「扇動的な」言論を理由に逮捕された。

加えて当局は、英国植民地時代の古い法律を持ち出して、民主派の政治家や活動家を一網打尽に逮捕している。

「香港民主主義の父」と呼ばれる李柱銘は「無許可」の集会を呼び掛け、参加したかどで禁錮刑を言い渡された。香港では従来、政治集会やデモの計画を警察に出せば、たいていは「不反対通知書」なるものを交付されていた。しかし昨年以降は交付されなくなり、ほとんどの抗議行動は無許可で違法なものとなった。

2019年と2020年に開かれた集会も今になって違法と認定され、多くの活動家が逮捕されている。

かつて香港には1人の政治犯もいなかったが、今は無数の民主活動家が獄につながれている。かつての香港は本土から逃げてきた人々を受け入れていたが、今は多くの香港人が逃げ出して海外に亡命しようとしている。

そんな民主派の逃亡を阻止するため、香港政府は今年4月、入管当局に裁判所の許可なしで身柄を拘束できる権限を与えた。

【関連記事】「香港人には3種類しかいない。順民、暴民と移民だ」18歳女子大学生

香港警察の恐ろしい変化

中国政府が最も恐れているのは、既に名前の割れている活動家ではない。顔の見えない無数の「不穏分子」の存在だ。一連の抗議行動を教会関係者や医師、芸術家たちが支えていたのは周知の事実である。

デモ参加者の数を見ればいい。2019年6月9日には100万人、同月16日には200万人、8月18日にも170万人だった。そして同年11月24日の香港区議会議員選挙では、160万人が民主派の候補に投票した。しかも当選した民主派議員の多くは無名の存在だった。

160万といえば香港の人口の約5分の1。これだけの人が反旗を翻す状況を、中国共産党は座視できない。

そこで今年3月、中国政府は選挙法を修正し、選挙委員会の認定した「愛国者」だけに立候補資格を与えることにした。選挙委員会の職員は1200人から1500人に増やし、全員を共産党に忠実な人物で固める。その管轄範囲は行政長官の選挙だけでなく、立法会の議員選挙にまで拡大される。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発

ビジネス

気候変動ファンド、1―9月は240億ドルの純流出=

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ワールド

米商務長官指名のラトニック氏、中国との関係がやり玉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中