やりすぎてしまった? 残酷すぎるコロナCM動画に賛否 豪
さらに専門家からは、このような刺激的な動画は逆効果だとする意見も出ている。メルボルンの小児医学研究所で主任研究員を務めるジェシカ・カウフマン博士は、英ガーディアン紙に対し、「私たちの経験上、とくにワクチン接種に関しては、恐怖をあおるキャンペーンや病気についての恐ろしいメッセージなどは、実際にはワクチンの副作用に関する恐怖を掻き立ててしまうことがあります」と述べている。
一方、1987年にエイズの危険性を警告する刺激的なテレビCMを製作したサイモン・レイノルズ氏は、シドニー・モーニング・ヘラルド紙に対し、ありきたりなCMよりも格段に良いと語る。人々に行動を促すという意味で、高い説得力を持つ本動画は優れているとの見解もあるようだ。
民間CMに惜しみない拍手
政府広告が痛烈な批判を受けてから1週間ほど経ったころ、民間の団体が新たなCM動画を公開した。同じくワクチン接種を勧める内容ながら、こちらは接種で日常生活を取り戻そうというポジティブな構成となっており、公開と同時に評判を呼んでいる。南東部ビクトリア州のメルボルン交響楽団がプロデュースし、ほかの複数のパフォーマンス団体が撮影に協力した。
動画は「ビクトリア州の人々よ」「コロナのロックダウンのせいで室内に閉じ込められる日々は辛いことでしょう。我々も同じです」というセリフで幕を開ける。オーケストラ奏者、バレエダンサー、劇団員など、さまざまなアーティストたちが前向きなメッセージをカメラに語り、次の話者へとバトンを渡してゆく形式だ。
動画は興行イベントを比喩的に使いながら、ユーモアとストーリー性を持って展開してゆく。あるカットでは女性がカメラに向かい、「ワクチンを打てない人もいます。だから、そうした人々も安全に過ごせるように、アンサンブルのような皆の協力が必要です」と語りかける。ワクチンを打つことができない若者の神経を逆撫でしてしまった旧CMとは明らかに異なる路線だ。
あるバイオリニストは「人生最大級のステージの前には、誰しも緊張するのがふつうです」と語り、不安ならかかりつけ医に事前の相談を、と勧める。ピアノ奏者は「ネットで読める情報には物語にひどい破綻があるものもあるからね」と、デマの危険性を粗末な映画に例えながら警告する。バックステージに立つ女性は「コロナに最後のカーテンコールを贈りましょう」と述べるなど、演劇の世界とうまく絡めながら視聴者の興味を惹いてゆく巧みな構成だ。
さらに、これとは別にもう1本、ビクトリア州の社会事業団体が製作した動画も話題になっている。ごくふつうに暮らす人々が登場し、結婚式を挙げたくて待ちきれないなど、コロナ収束後のそれぞれの夢を語る。最後に、そのためにもワクチン接種を、と呼びかける内容だ。こちらも力強い曲に乗せた前向きなトーンにまとまっており、好評を博している。
まるで『北風と太陽』の寓話のように、温かなトーンで語りかける動画の方が、かえって人々の心に響いているようだ。