最新記事

ドイツ

メルケル後のドイツを揺るがす「極右に熱狂する」旧東独の反乱

Still Divided After 30 Years

2021年7月15日(木)20時21分
エミリー・シュルトハイス(ジャーナリスト)

東の住民が不満を抱く理由は十二分にある。この地域は経済的に西ほど恵まれておらず、賃金水準は低く、失業率は高い。地域の産業の多くは旧西独または外国の企業に支配されているし、この間にもっと人件費の安い外国へ出て行った企業も多い。

そして現首相のメルケルこそ旧東独育ちだが、全体として見れば経済界でも政界でもメディアでも、東の出身者がトップに立っている例はあまりに少ない。

加えて、15年から16年にかけての難民の流入がAfDのような極右政党を勢いづかせた。ドイツ東部にやって来た難民はごくわずかだったが、「やっと立て直した生活を再び失うかもしれないという大きな不安が住民の間に広まった。そして彼らの多くがAfDに投票した。そんな事態は絶対に防ぐとAfDが約束したからだ」と、南ドイツ新聞のガンメリンは言う。

AfDは住民の恐怖心に付け込む一方、彼らが30年前の熱気に対して抱く郷愁も利用している。東部5州のうち3州で地方選挙があった19年、AfDは「革命を完成させよう」と呼び掛け、選挙ポスターで「われらこそ人民」だと宣言した。後者は30年前に決起した旧東ドイツ民主派のスローガンだった。

今春のザクセン・アンハルト州デッサウ・ロスラウでの選挙運動でも同じ手が使われた。AfD幹部らは町の広場に集まった100人ほどの聴衆に、AfDは個人の権利を擁護する唯一の党であり、1989年の民主化闘争の志を継ぐ政党だと言い切った。

「東の人は現実を直視している」

「一緒に歴史を書こう」。AfDの連邦議員アンドレアス・ムロセックはそう叫んだ。「いつか子や孫に『私は本物の政治的変化に手を貸したんだ』と誇れるぞ」。今年の地方選と秋の総選挙でAfDは「市民の自由とドイツの民主主義を守る!」と大見えを切った議員もいる。

もっとクールな見方をするのは、元連邦議員で女性のアンチュ・ヘルメナウ。以前は緑の党に属していたが、15年に離党した。彼女に言わせれば「東の人は現実を直視しているが、西の人は夢を見ている」。だから投票行動に差が出るのは当然だ(ちなみに彼女は、緑の党も現実を見ていないと批判する)。

ヘルメナウによると、東のドイツ人は今も、感覚的には(西欧ではなく)東欧の一部だ。ベルリンの壁が崩壊してから暮らしは一変し、みんな大変な思いをしてきた。だから自分たちの今の暮らしを守りたいという意識が強く、権力者やメディアの言うことは信用しない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

フィッチ、インドネシア見通し「ネガティブ」に下げ 

ワールド

イラン軍艦がスリランカ沖で沈没、32人救助 遺体を

ワールド

中国政協開幕、軍トップ張氏ら政治局員2人が姿見せず

ビジネス

スイス中銀、為替介入意欲が高まる=副総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中