最新記事

現代史

複合的な周年期である2021年と、「中東中心史観」の現代史

2021年7月1日(木)17時15分
池内 恵(東京大学先端科学技術研究センター教授)※アステイオン94より転載
アラブの春、エジプト・カイロの反政府デモ

「アラブの春」から10年がたった(2011年2月、エジプト・カイロの反政府デモ) Dylan Martinez-REUTERS


<今年2021年は日本では東日本大震災から10年だが、世界史的には「アラブの春」から10年、9・11同時多発テロ事件から20年、湾岸戦争から30年である。「ポスト冷戦期は中東問題の時代だった」と唱える、池内恵・東京大学教授。論壇誌「アステイオン」94号は「再び『今、何が問題か』」特集。同特集の論考「歴史としての中東問題」を2回に分けて全文転載する(本記事は第1回)>

周年期の構想

2021年という年は、多くの周年期が重なる、「複合的な周年期」とも言える年である。日本にとっては東日本大震災から10年という点が何よりも重く感じられるため忘れられてしまいがちだが、中東においては、2011年の「アラブの春」から10年が経過した節目の年であり、国際政治の歴史認識においてはこちらがより関心を集めることは確実である。「アラブの春」が呼び覚ました中東地域の動揺は、途切れることなく現在まで続いている。

そうであれば、「今、何が問題か」という与えられたお題に対して、「アラブの春から10年の中東情勢」こそがまさに「現在の問題である」と、中東研究者たる私が解説、力説すればいいのだろうか。それが相応しい場もあるかもしれない。ただ、私には『アステイオン』がそのような場であるとは思えない。また、私という書き手が今現在、『アステイオン』という場でそのような議論を展開することが有益であるとも、求められているとも、私には考えられないのである。

ここではもう少し、2021年の「複合的な周年期」としての意味を考えてみよう。2021年は、2001年の9・11事件から20年の節目となる。9・11事件によって、冷戦後の米国主導のリベラルな国際秩序に公然と挑戦する、ほぼ唯一の残された理念として、イスラーム教とイスラーム政治思想が、まさに「問題」として国際社会に立ち現れた。

それによって動員される多様な集団が、米国を中心とした国際秩序を揺るがす「脅威」として認識され、米国が主導して、中東・北アフリカから南アジアにかけての地域を主要な対象にした「対テロ戦争」をグローバルに戦った。日本もそれに否応なく関与することになった。この観点からは、2001年からの20年は、国際政治史を将来に叙述する時に、「対テロ戦争の時代」であったと位置づけられることになるだろう。

さらに、2021年は、1991年の湾岸戦争から30周年でもある。前年8月のイラクのフセイン政権によるクウェート侵攻に対して、1991年1月17日に、米国が率いる多国籍軍が戦闘を開始し、短期間にイラク軍をクウェートから放逐した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席へ ウ和平交渉重大局面

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 運

ワールド

感謝祭当日オンライン売上高約64億ドル、AI活用急
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中