複合的な周年期である2021年と、「中東中心史観」の現代史
巡航ミサイルなど米国の最先端の兵器の優位性が明らかになったこと、それがCNNに代表される衛星放送という新しいメディアを通じて全世界に中継されたこと、米国主導の多国籍軍とその陣営には、反米主義、反植民地主義、民族主義を喧伝してきたアラブ諸国からも主要な国が加わったこと、崩壊過程にあったソ連がほとんど全く影響力を行使しなかったことなど、湾岸戦争においては、冷戦後の国際秩序の主要な要素が現れている。
そして、当然のようでいて忘れられがちなのは、湾岸戦争は中東で起こった、ということである。湾岸戦争から現在まで、国際政治の主要な「問題」が、多くの場合は中東に発生してきた。この観点から、過去30年は、中東を「危機の震源」とする、国際政治における「中東問題の時代」であったと言うこともできるのではないか。
私はこの1991年の湾岸戦争を起点とする「現代史」の認識を、より深め、広めたいと思う。「中東問題」を軸とした現代史1991年を起点とする現代史、国際政治史の認識はそれほど一般的ではない。
一般的には、現在の国際政治における現代史の起点は、1989年に明らかになった東西冷戦構造の崩壊とされがちであり、その後の時代を「冷戦後」「ポスト冷戦期」といった名称で呼ぶことが多い。1989年のベルリンの壁の崩壊が象徴する、東西冷戦構造の崩壊、あるいは崩壊の始まりが、「冷戦後」という次の時代の起点とされる。
「冷戦後」という観念は、「冷戦」というそれまで厳然と存在していたものが不在になった「後」の、まだ性質と内実が定かではない未知の時代として認識されることで成立している。それまでの冷戦期を生きてきた人にとって、現代史の起点を1989年とすることは、自然な世界認識の方法である。
「冷戦」とは既知の現実の存在であるのに対して、その「後」の時代は未知のこれから生じてくる存在であって、その新たな時代の始まりを示すために、すでに終わった時代の終わりが明らかになった年号を示すのは当然とも言える。