最新記事

現代史

複合的な周年期である2021年と、「中東中心史観」の現代史

2021年7月1日(木)17時15分
池内 恵(東京大学先端科学技術研究センター教授)※アステイオン94より転載

巡航ミサイルなど米国の最先端の兵器の優位性が明らかになったこと、それがCNNに代表される衛星放送という新しいメディアを通じて全世界に中継されたこと、米国主導の多国籍軍とその陣営には、反米主義、反植民地主義、民族主義を喧伝してきたアラブ諸国からも主要な国が加わったこと、崩壊過程にあったソ連がほとんど全く影響力を行使しなかったことなど、湾岸戦争においては、冷戦後の国際秩序の主要な要素が現れている。

そして、当然のようでいて忘れられがちなのは、湾岸戦争は中東で起こった、ということである。湾岸戦争から現在まで、国際政治の主要な「問題」が、多くの場合は中東に発生してきた。この観点から、過去30年は、中東を「危機の震源」とする、国際政治における「中東問題の時代」であったと言うこともできるのではないか。

私はこの1991年の湾岸戦争を起点とする「現代史」の認識を、より深め、広めたいと思う。「中東問題」を軸とした現代史1991年を起点とする現代史、国際政治史の認識はそれほど一般的ではない。

一般的には、現在の国際政治における現代史の起点は、1989年に明らかになった東西冷戦構造の崩壊とされがちであり、その後の時代を「冷戦後」「ポスト冷戦期」といった名称で呼ぶことが多い。1989年のベルリンの壁の崩壊が象徴する、東西冷戦構造の崩壊、あるいは崩壊の始まりが、「冷戦後」という次の時代の起点とされる。

「冷戦後」という観念は、「冷戦」というそれまで厳然と存在していたものが不在になった「後」の、まだ性質と内実が定かではない未知の時代として認識されることで成立している。それまでの冷戦期を生きてきた人にとって、現代史の起点を1989年とすることは、自然な世界認識の方法である。

「冷戦」とは既知の現実の存在であるのに対して、その「後」の時代は未知のこれから生じてくる存在であって、その新たな時代の始まりを示すために、すでに終わった時代の終わりが明らかになった年号を示すのは当然とも言える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大

ワールド

ロシアの対欧州ガス輸出、パイプライン経由は今年44

ビジネス

スウェーデン中銀、26年中は政策金利を1.75%に

ビジネス

中国、来年はより積極的なマクロ政策推進へ 習主席が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中