ワクチンが不足すればテロが増える──アフリカのコロナ禍
COVAX供給のワクチンの接種を受けるケニアの観光ツアーガイド MONICAH MWANGI-REUTERS
<ワクチン接種の遅れるアフリカでは、コロナ対策が必然的にロックダウン頼みとなり、経済不安と貧困がテロ組織を勢いづけている。世界の責任とワクチン確保に努めるべき理由とは?>
アフリカ諸国の指導者は5月中旬、パリにおいて、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)後の経済復興について話し合った。この国際会合で浮き彫りになったのは、コロナワクチンの不足がロックダウン(都市封鎖)と深刻な不況、イスラム過激派のテロ復活に直結するという共通認識だった。
アフリカ大陸の人口は約13億人。世界全体の約16%だが、ワクチンの接種量は世界の2%に満たない。ウガンダでは、ワクチン接種済みの国民は人口のわずか1%だ。
アフリカ大陸には大規模なワクチン製造施設がないため、供給を世界の他地域に頼っている。しかし、低所得国への公平なワクチン供給を目指すCOVAXのような国際的取り組みは、十分に機能していない。
重要なワクチン製造拠点のインドで感染が急拡大し、アフリカへのアストラゼネカ製ワクチンの供給が大きく落ち込んだことは特に深刻な問題だ。しかし、それ以外の問題はやり方次第で解決できる。
COVAXは、高所得国がワクチンを共同購入して低所得国に無償提供する仕組みだが、ほとんどの高所得国は製薬会社と個別に2国間契約を結んでいる。そのためCOVAXへの資金拠出は不足し、高所得国ではワクチンの余剰が発生している。
一方、アフリカ諸国の政府は限られた資源をコロナ対策に取られているため、各地でテロが活発化している。アフリカ中央部のチャド湖周辺では、数年前に周辺諸国が協力してほぼ壊滅させたイスラム武装組織ボコ・ハラムが復活。モザンビーク北部でも、イスラム過激派の攻撃が急増した。
サハラ砂漠南縁部のサヘル地域では、国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)の関連組織が多数出現し、地域社会を脅かしている。これらのテロ組織を勢いづけているのは経済不安と貧困、絶望と飢えだ。
十分なワクチンが入手できなければ、状況は悪化する一方だ。アフリカ諸国は感染防止策として、経済にダメージを与えるロックダウンのような手段に頼るしかない。その結果、企業活動や消費が停滞し、世界で最も貧しい国々に深刻な影響を与えている。
影響を受けるのはアフリカだけではない。紛争の激化はグローバルなサプライチェーンを破壊する恐れもある。それによって鉱物資源の採掘コストが上昇すれば、高所得国も打撃を受けかねない。
紛争を別にしても、低所得国のワクチン接種の遅れが世界経済に与える影響は甚大だ。国際商業会議所(ICC)の予測では、世界経済の損失は9兆ドルを超え、そのうちの約50%はワクチン接種を済ませた高所得国がかぶることになるという。