最新記事

新型コロナウイルス

コロナ感染、重症化と男性ホルモンの関係はどうなっているのか 米研究

2021年6月3日(木)17時30分
青葉やまと

男性ホルモンの急激な減少がコロナ感染や重症化のサインであるかもしれない Standart-iStock

<男性ホルモン値が高いほど重症化傾向との従来説に、新たな臨床データがノーを示した>

新型コロナでは、男性の方が女性よりも重症化と死亡に至りやすい。この傾向はパンデミックの初期からはっきりと現れていた。米ハートフォード病院は、中国でのこれまでのコロナによる死亡者の73%が男性、イタリアでも70%が男性だったと紹介している。

これほど顕著な違いがありながら、その原因についてはいまだ確定的な説明がなされていない状態だ。さまざまな推測が登場しており、なかには生活習慣の違いを原因とする見方もある。英医療情報サイトの『メディカル・ニュース・トゥデイ』は、男性の喫煙率の高さやマスクを着けない割合が比較的多いことなど、生活パターンの違いを根拠に挙げるものが多く見られると述べている。

男性ホルモンに注目した説は、高いと重症化しやすいとの認識だった

もっとも、比較的最近では、男性ホルモンを重症化の要因と位置付ける研究が出てきている。こうした説はこれまで、複数ある男性ホルモンのうち最も主要なホルモンである「テストステロン」の濃度が高いほど重症化に至りやすいとするものが主流だった。

この流れを汲んで今年1月には、米ミシガン大学が運営する探索的臨床病理学ミシガン・センターの研究者などが、ウイルス感染のメカニズムと関連づけた論文を著した。米国科学アカデミー紀要上で発表されたこの論文によると、男性ホルモンのテストステロンが気道上の細胞に作用し、より感染しやすい状態を作り出しているのだという。

研究チームは、ACE2およびTMPRSS2と呼ばれる物質に注目した。ACE2は、コロナウイルスが細胞内に侵入する際、ヒトの細胞に取り付く足掛かりになるものだ。トゲ状に飛び出たウイルスのスパイクタンパク質が、ヒトの細胞上のACE2受容体と結合すると、侵入の第一段階が完成する。このとき、細胞上のTMPRSS2と呼ばれる酵素が、ウイルスのスパイクタンパク質の働きを活性化する。

感染を促進してしまうこれら2つの物質は人体の多くの臓器に存在するが、とくに気道、肺胞、小腸に多く発現する。このうち肺内部の気道についてマウスを使った実験を行ったところ、男性ホルモンの増加に伴い、ACE2およびTMPRSS2の増加が確認された。実験ではオス・メスを問わず、男性ホルモンの増減に伴って同様の傾向が見られたという。

研究チームは、テストステロン値の上昇に伴ってこれら受容体が肺内部に多く発現し、より感染しやすい状態を生み出しているのだと説明している。本研究は感染に関するものだが、ほかにも既存の研究により、重症化との関連が指摘されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米下院、エプスタイン文書公開巡り18日にも採決 可

ワールド

国連安保理、トランプ氏のガザ計画支持する米決議案を

ワールド

米大学の25年秋新規留学生数、17%減 ビザ不安広

ビジネス

ティール氏のヘッジファンド、保有エヌビディア株を全
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中