最新記事

ドキュメンタリー

専門家でさえ初めて見るクジラの貴重映像...海の神秘に迫ったJ・キャメロン

They’re Just Like Us

2021年5月21日(金)18時40分
キャスリーン・レリハン

210525P58_JCR_03.jpg

水中写真家のスケリーはクジラの生態を間近で捉えた BRIAN SKERRY

キャメロンが来年公開予定の『アバター2』を撮影する一方で、スケリーは現地で間近に、クジラの姿を映像に収めた。その中には、人間を不安にさせるものもある。

「クジラを観察すれば、人類の文明がもたらすストレスや打撃にやがて気付く」と、キャメロンは話す。いい例が、ナショナル・ジオグラフィックのダイバーが、漁具に絡まって溺れそうなシャチの救助活動を手伝う場面だ。

ナレーションによれば、釣り糸が絡まったせいで死ぬクジラは1日当たり1000頭近く。「この巨体のオスシャチにとって、ダイバーを殺すことは簡単。でも、シャチは理解しているようです......」。あの異世界の住人のような声音で、ウィーバーは解説する。

「ほとんど全ての文明活動がクジラの害になる」と、キャメロンは言う。水質汚染も、資源開発に伴う地震探査や軍事用ソナーが引き起こす水中騒音もそうだ。

音によって世界を把握し、エコーロケーション(反響定位)を用いて獲物を捕らえるクジラにとって、水中騒音は極めて有害だ。クジラの座礁の多くには水中騒音が関係していると、キャメロンは語る。聴覚にダメージを受けたクジラは獲物を探すことも、周囲を知覚することもできなくなり、座礁してしまう。

「人間は唯一の存在ではない」

「社会的絆で結ばれているクジラは、1頭が座礁すると助けに向かう。その結果、群れのクジラが全滅することになりかねない」

「人は愛情を感じず、大切に思わないものを守ろうとしないものだ。人々に気に掛けさせることが変化のための第一歩だ」と、キャメロンは言う。「人類文明には根本的な戦いが存在する。テーカー(奪う者)とケアテーカー(保護する者)の戦いだ。前者は自然を搾取の対象で、利益の源泉と見なす。自分はどちらかと自問してほしい。自分はどちらに票を投じるのか、と」

キャメロンに言わせれば、答えは白黒がはっきりしたものとは限らず、おそらく「ちょっと灰色」だ。

「こうした問いをリトマス試験紙にして決断を下す人は責任ある地球市民だ。この巨大な宇宙船に、不運にも人間と乗り合わせた市民であるクジラのことを気に掛けている」

スケリーは『クジラと海洋生物たちの社会』によって、海洋保護に対する意識が高まればとも願っている。

「クジラも愛情や遊び心、共感性を持ち、子孫のために多くのことをし、伝統を受け継いでいると知れば、自然界がどれほど特別かを理解し、人間は唯一の存在ではないと悟るきっかけになる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-インタビュー:ラピダス半導体にIOWN活用も

ビジネス

中国、国有メーカー2車種を初の自動運転レベル3認定

ワールド

インド貿易赤字、11月は縮小 政府高官「米との枠組

ビジネス

日本生命、医療データ分析のMDVにTOB 完全子会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中