最新記事

ドキュメンタリー

専門家でさえ初めて見るクジラの貴重映像...海の神秘に迫ったJ・キャメロン

They’re Just Like Us

2021年5月21日(金)18時40分
キャスリーン・レリハン

210525P58_JCR_02.jpg

有人深海探査艇ディープシー・チャレンジャーで海を探検してきたキャメロン MARK THIESSEN/NATIONAL GEOGRAPHIC IMAGE COLLECTION

「3年にわたる海での作業は困難を極めた。水に潜るコンディションも悪かった。私には分からないことだらけで、(スケリーの)芸術的な才能と職人技には本当に感銘を受けた」と、キャメロンは振り返っている。

スケリーによると、撮影は悪天候にも苦しめられたが、そもそも大海原でクジラを見つけるのが大変だったという。「何週間、何カ月探し回っても、全く遭遇できないこともあった」と、スケリーは本誌に語っている。「3年というと、ものすごく長い撮影期間に思えるかもしれないが、クジラの生態を撮影するには、かろうじて十分な程度だ」

『クジラと海洋生物たちの社会』には、専門家でさえ初めて見る映像が多い。マッコウクジラが子クジラに授乳する場面や、ベルーガの群れがイッカクを仲間に入れてやる「種を超えた養子縁組」など珍しいシーンばかりだ。

「クジラのような大きな動物に近づき、ドラマチックだが親密な場面を捉えるにはどうすればいいか」と、キャメロンは問い掛ける。「(スケリーが)クジラの信頼を得ることだ。そうすればクジラは近づくのを許してくれる」

以前のニューヨークのような多様性

第1話では、シャチがスケリーに食事を分けてやる場面さえある。といっても、それは血まみれのアカエイで、スケリーは丁重に断るのだが。

「クジラは非常に複雑で感情豊かな動物だと、私たちは思ってきた。それが幻想ではなかったことがはっきりした」と、キャメロンは語る。スケリーがその「証拠映像」を手に入れたというのだ。

血のつながらないザトウクジラが世界中から集まるときは、「古い友達が年に1度集まってビールを飲む会に似ている」と、キャメロンは言う。ただし、クジラたちはビールを飲むのではなくて、「バブルネット・フィーディング(海に円形に泡を吐き出して魚を囲い込む漁の方法)をしてごちそうにありつく。まるでダンスみたいに連携の取れたタイミングでね」。

そんなクジラの最大の「秘密」とは――。

スケリーいわく、クジラは人間と同じように複雑な生活を営み、家族や文化を持つ。その在り方は「異なるカルチャーや言語表現を持つ数多くの集団がひしめいていた、前世紀末から今世紀初頭のニューヨーク」のようだという。

「クジラの母親は子供たちに生き残るためのスキルを伝授する。だがそれだけでなく、文化的伝統も教える。ザトウクジラは『歌合戦』を開き、ベルーガは毎年『サマーリゾート』を訪れてゲームをする。クジラは自らのアイデンティティーをたたえ、死者を追悼する。私たち人間と地球を分かち合う知的生命体だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

東南アジアの洪水、死者161人に 救助・復旧活動急

ワールド

再び3割超の公債依存、「高市財政」で暗転 25年度

ビジネス

ミネベアミツミ、ボーイングの認定サプライヤーに登録

ビジネス

野村HD、オープンAIと戦略連携開始 収益機会を創
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中