最新記事

環境

中南米12カ国が批准した「エスカス条約」、狙われる環境保護活動家の命を守れるか

2021年4月26日(月)10時02分

ラテンアメリカにおける活動家を保護することを目指す「エスカス条約」は、毎年多くの活動家が命を落としている同地域において、重要な分岐点になるかもしれない。ブラジル・アマゾナス州の熱帯雨林内にある先住民の土地で、森林伐採された場所を示す人々。2019年8月20日に撮影(2021年 ロイター/Ueslei Marcelino)

ラテンアメリカにおける活動家を保護することを目指す「エスカス条約」は、毎年多くの活動家が命を落としている同地域において、重要な分岐点になるかもしれない。もっとも、人権擁護団体によれば、この条約の成否は各国政府と大企業が本気を見せるかどうかにかかっている。

ニカラグアの活動家、ロッティ・カニンガム氏は、この条約を極めて重要と位置付けている。ニカラグア国内の先住民の土地における鉱業・農業プロジェクトに反対する同氏は、殺害予告やオンラインでの嫌がらせを受けることを覚悟するようになった。

「私たちは先住民の権利や母なる大地、天然資源を保護しようとする中で、脅迫やハラスメント、殺害予告に悩まされてきた」とカニンガム氏は言う。先住民出身の弁護士である同氏は、電話でトムソン・ロイター財団の取材に応じた。

「これは事実上の戦争だ。フェイスブックでは、『戦争と言うからには血が流れる』というメッセージも受け取った」と、ニカラグア大西洋岸地域公正・人権センター(CEJUDHCAN)を率いるカニンガム氏は語る。

活動家に対するこうした攻撃が、脅迫に留まらない例も多い。ラテンアメリカ・カリブ海地域では、昨年、推定300人近い人権活動家が殺害された。

カニンガム氏のような活動家にとって世界で最も危険な地域であるラテンアメリカだが、活動家に対する保護を改善し、加害者に司法の裁きを受けさせることにつながるのではないかと期待されているのが、「エスカス条約」である。

この条約は4月22日に発効する。域内33カ国のうち24カ国がこれまでに調印し、12カ国が正式に批准した。法的な拘束力を承認した12カ国のうちの1つがニカラグアである。

カニンガム氏によれば、この条約は活動家を保護するだけでなく、鉱業や畜産などの事業者に対する許認可の決定に際して、先住民の人々の「実効的な関与」が可能になることが期待されるという。

また、この条約は、活動家が環境をめぐる事件や問題に関する公式情報にアクセスできるようにすることを各国に義務付けている。

「画期的な条約」

人権・環境に関する国連特別報告者のデビッド・R・ボイド氏は、この「画期的な」条約は、「命を救う」転機をもたらす可能性があると語る。

「環境・人権活動家の保護に向けた各国政府の具体的な義務を盛り込んだ世界初の条約だ」とボイド氏は言う。

「グローバルに見て、ラテンアメリカの一部の国は、環境・人権活動家に対する暴力が頻発するホットスポットになっている。この条約は、防止措置を強化し、各国政府が守るべき義務を定めることによって、そうした状況に対処することを直接めざすものだ」と──。

ボイド氏によれば、環境保護活動家に対する犯罪は見過ごされる場合があまりにも多いが、この条約によって、各国がそうした犯罪を捜査し、加害者を訴追するよう国内法を強化することを促す可能性があるという。

この条約が発効する一方で、ラテンアメリカ諸国の一部では、活動家への攻撃が今まさに増大しつつある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

ロシア黒海主要港にウクライナ攻撃、石油輸出停止 世

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

中国、日本への渡航自粛呼びかけ 高市首相の台湾巡る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中