最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナは世界をどう変えるか 下水道もベランダも感染症で生まれた

PANDEMIC HANGOVERS

2021年4月23日(金)06時55分
レベッカ・オニオン
排水処理場

DEDMITYAY-ISTOCK

<コレラの流行によって都市部には下水道が整備され、スペイン風邪のおかげで紙食器や食品のセロハン包装が一般的になった。パンデミックは私たちの習慣や社会の在り方に大きな影響を与える>

思えば1年前のメディアには「新型コロナウイルス感染症で世界はこう変わる」といった記事があふれていた。「大学の対面型授業は終わりだ」とか、「地下鉄やバスには誰も乗らなくなる」とか。

もちろん、「新型コロナで何が変わったか」と過去形や現在完了形で問うのは時期尚早だ。

しかし大昔のペストから最近のエイズに至るまでのさまざまな疫病(とその社会・文化的な影響)の歴史をひもとけば、新型コロナが21世紀の社会に及ぼす各種の影響も、ある程度までは想像できる。

そもそも現在の住宅や都会で常識となっている特徴の多くは、19世紀に頻発した恐ろしい感染症の記憶と密接な関係がある。例えば19 世紀前半に流行したコレラ。これによって都市部には下水道が整備され、建築関連の各種規制も生まれた。

1833年にはシカゴで、川に動物の死骸を捨てることが禁じられた。当時は市内に食肉解体業者が多く、水が病気を運んでくるという俗信もあった。街路の清掃やごみ捨ての規則もできた。

病気は「汚れた空気」によって広まるという説もあったので、住宅にはベランダを付けるようになり、中庭を設けて樹木を植え、隣の家との間隔を広げるようになった。

19世紀も後半になると、細菌とそれを運ぶ動物の存在が広く知られるようになり、室内の掃除や換気をしやすい設計が工夫された。

消費者向けのさまざまな製品も登場した。その多くは、20世紀になって衛生状態が改善され、ワクチンや治療薬の発見で感染症の脅威が後退してからも生き残った。

歴史家のナンシー・トメスに言わせると、1918年に始まる「スペイン風邪」の大流行を経験した後の20年代、30年代には細菌の恐怖に便乗した商品が続々と登場した。怪しげな風邪薬や水虫薬、機械で巻いた葉巻(手巻きよりも細菌感染リスクが少ないとされた)などだ。

magSR20210423pandemichangovers-2.jpg

ILLUSTRATION BY INVINCIBLE_BULLDOG-ISTOCK

感染症に便乗した差別も

トメスは1998年の著書『細菌の福音書』で、スペイン風邪の流行期に各種の広告業界誌に発表された論考を分析。賢い広告主は流行期にこそ恐怖心をあおるような広告表現を控えたが、終息後には感染症のつらい経験を忘れるなと言い立て、ひたすら「衛生」という概念を強調するようになったと指摘する。

アメリカの消費者は感染症に対する「根源的な不安」を刷り込まれたのだった。

紙食器や食品のセロハン包装が一般的になったのも、スペイン風邪のおかげだ。

第1次大戦が始まる前のアメリカでは、使い捨ての紙製品はトイレットペーパーだけだった。しかし戦争も感染症も終わった20年代には、食品の包装紙や紙コップ、ティッシュペーパー、紙製の生理用品が一気に普及した。

【関連記事】集団免疫の難しさと、変異株より大きな脅威「免疫消失の可能性」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは146円付近で上値重い、米の高関税

ビジネス

街角景気6月は0.6ポイント上昇、気温上昇や米関税

ワールド

ベトナムと中国、貿易関係強化で合意 トランプ関税で

ビジネス

中国シーイン、香港IPOを申請 ロンドン上場視野=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中