新型コロナは世界をどう変えるか 下水道もベランダも感染症で生まれた
PANDEMIC HANGOVERS
DEDMITYAY-ISTOCK
<コレラの流行によって都市部には下水道が整備され、スペイン風邪のおかげで紙食器や食品のセロハン包装が一般的になった。パンデミックは私たちの習慣や社会の在り方に大きな影響を与える>
思えば1年前のメディアには「新型コロナウイルス感染症で世界はこう変わる」といった記事があふれていた。「大学の対面型授業は終わりだ」とか、「地下鉄やバスには誰も乗らなくなる」とか。
もちろん、「新型コロナで何が変わったか」と過去形や現在完了形で問うのは時期尚早だ。
しかし大昔のペストから最近のエイズに至るまでのさまざまな疫病(とその社会・文化的な影響)の歴史をひもとけば、新型コロナが21世紀の社会に及ぼす各種の影響も、ある程度までは想像できる。
そもそも現在の住宅や都会で常識となっている特徴の多くは、19世紀に頻発した恐ろしい感染症の記憶と密接な関係がある。例えば19 世紀前半に流行したコレラ。これによって都市部には下水道が整備され、建築関連の各種規制も生まれた。
1833年にはシカゴで、川に動物の死骸を捨てることが禁じられた。当時は市内に食肉解体業者が多く、水が病気を運んでくるという俗信もあった。街路の清掃やごみ捨ての規則もできた。
病気は「汚れた空気」によって広まるという説もあったので、住宅にはベランダを付けるようになり、中庭を設けて樹木を植え、隣の家との間隔を広げるようになった。
19世紀も後半になると、細菌とそれを運ぶ動物の存在が広く知られるようになり、室内の掃除や換気をしやすい設計が工夫された。
消費者向けのさまざまな製品も登場した。その多くは、20世紀になって衛生状態が改善され、ワクチンや治療薬の発見で感染症の脅威が後退してからも生き残った。
歴史家のナンシー・トメスに言わせると、1918年に始まる「スペイン風邪」の大流行を経験した後の20年代、30年代には細菌の恐怖に便乗した商品が続々と登場した。怪しげな風邪薬や水虫薬、機械で巻いた葉巻(手巻きよりも細菌感染リスクが少ないとされた)などだ。
感染症に便乗した差別も
トメスは1998年の著書『細菌の福音書』で、スペイン風邪の流行期に各種の広告業界誌に発表された論考を分析。賢い広告主は流行期にこそ恐怖心をあおるような広告表現を控えたが、終息後には感染症のつらい経験を忘れるなと言い立て、ひたすら「衛生」という概念を強調するようになったと指摘する。
アメリカの消費者は感染症に対する「根源的な不安」を刷り込まれたのだった。
紙食器や食品のセロハン包装が一般的になったのも、スペイン風邪のおかげだ。
第1次大戦が始まる前のアメリカでは、使い捨ての紙製品はトイレットペーパーだけだった。しかし戦争も感染症も終わった20年代には、食品の包装紙や紙コップ、ティッシュペーパー、紙製の生理用品が一気に普及した。