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人種差別

日本や韓国はアジアじゃない? アジアの「異質さ」が差別との闘いを難しくしている

Just Who Is “Asian” ?

2021年4月15日(木)20時15分
エミリー・カウチ(ジャーナリスト)

私は幼い頃に、中国から養子縁組で白人中産階級の英国人と米国人の夫婦に引き取られ、人生の大半を白人社会で過ごしてきた。私は北京語も広東語もしゃべれない。

決して珍しい身の上ではない。これまでに少なくとも中国の子供11万人くらいが養子に出され、その7割以上が米国人に引き取られている。アメリカには韓国からの養子も12万5000人ほどいて、その養親の多くは白人だ。

こんな私も、ファストフード店で働くタイ人女性もシリコンバレーで働くインド系の成功者も、同じ「アジア系コミュニティー」の一員といえるのだろうか。違う、と思う。でも私も「アジア嫌い」の人たちから差別を受けている。あのアトランタの事件も人ごととは思えなかった。

アメリカもイギリスも今は多民族社会だ。アジア系だからといってアジア系ばかりの地域に住むとは限らず、祖先の国に強いつながりを持つとも限らない。それでも「アジア」でくくる意識は根強く、アジア系といえば中華街や韓国人街、日本人街などの住人と考えられがちだ。悪意はなくとも、そうやって異質さを強調することは、そうしたコミュニティーへの帰属意識を持てない私のようなアジア人を切り捨てるに等しい。

あえて使われた「ブラックネス」

もっと困った問題もある。白人の間で暮らすアジア人の多様な経験を理解する際に、アメリカ流の人種分類が使われてしまうことだ。いい例がAAPI(アジア系アメリカ人と太平洋の島々の人)という呼び方。これは明らかにアメリカの社会的文脈、それも往年の国勢調査におけるいいかげんな人種分類から生まれたものだ。「#ストップAAPIヘイト」というハッシュタグも、アメリカでこそ盛り上がるだろうが、よその国や社会にはなじまない。

昨年のBLMは世界的な広がりを見せ、イギリスはもちろんドイツやフランスの抗議デモでもスローガンとして使われた。しかしこれも、いわゆる西欧圏の社会がアメリカ的な人種の議論に使われる用語を安易に、ろくに自国の状況を考慮せずに借用していることの表れと言える。ヨーロッパの人は、自国の根深い人種差別と闘ってきた活動家の名は知らなくても、アメリカの故マーティン・ルーサー・キング牧師の名は知っている。

かつてアメリカの公民権運動では、黒人たちが仲間を啓発し政治参加を促す言葉として、あえてブラックネス(黒さ)という語を使った。この語は今も彼らの集合的な記号表現として生きている。

最近では中南米系の人や中東・アラブ系、さらには南アジア系の人までを包含するブラウンネス(茶色)という語も登場してきた。そして進歩的な政治家や活動家は、あたかも「有色人種」の同義語であるかのように「ブラック・アンド・ブラウン」という語を用いている。BIPOC(黒人・先住民・有色人種)という言葉さえある。

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