最新記事

ライフスタイル

「北欧各国は幸福度が高い」と話す人に伝えたい真実 世界を正しく理解するデータの読み方

2021年4月3日(土)12時40分
バーツラフ・シュミル(マニトバ大学特別栄誉教授) *東洋経済オンラインからの転載

幸福度上位の国の共通点

一方、幸福度で上位のほうの国の共通点は一目瞭然。下位の国より貧しく、問題が多く、暴力事件も多発してはいるが、いずれの国もかつてはスペイン領だったため、圧倒的にカトリック教徒が多いのだ。

おまけに、どの国もトップ50にランクインしていて(エクアドルがちょうど50位)、日本(58位)よりだいぶ上だし、中国(93位)よりはるかに上だ。短絡的な欧米人から見れば、中国は幸せいっぱいの買い物客であふれる好景気に沸く国だというのに。

確かにルイ・ヴィトンは中国でたんまり儲けているのかもしれないが、巨大ショッピングモールも、ありとあらゆる情報を収集している共産党指導部も、中国の人々を幸せにできてはいないのだ。内政不安が続き、経済的にははるかに貧しいナイジェリア(85位)の人たちでさえ、中国の人よりも幸せを感じている。

よって、この世界幸福度ランキングから明確に得られた教訓をお伝えしよう。北欧、オランダ、スイス、ニュージーランド、カナダ以外の、どうしてもトップ10に食い込めない国のみなさんは、カトリックに改宗し、スペイン語の勉強を始めればいい。

次に幸福と失業率の関係について見ていこう。

そもそも失業率をはじめとした経済指標はあまり当てにならないと評判が悪い。というのも、その指標が何を計算に入れていて、何を計算に入れていないのかが、たいてい問題になるからだ。

例えばGDPは、大気汚染、水質汚染、土壌侵食、生物多様性の減少、気候変動といった要素がまったく考慮されていない。どの要素も、環境にさまざまなコストを生じさせているにもかかわらず、だ。

失業の指標もまた大切な要素を考慮していない。アメリカが公表する詳細なデータがその代表格だ。アメリカの経済関連のニュースでよく目にするのは、そうした公式発表の数字だろう。例えば、2019年12月のアメリカの完全失業率は3.5%だった。

ただしこれは、労働省労働統計局が「有効活用されていない労働力」を数値化するうえで利用している6つあるカテゴリーの指標の1つにすぎない。

では、その6つのカテゴリーの指標を数値の小さいものから紹介しよう(2019年12月時点のデータ。アメリカの失業率統計は日本などとは定義が異なる部分がある)。

①1.2%:労働力人口のなかで15週間以上、失業状態にある人の割合
②1.6%:失業し、臨時雇いの期間も終えた人の割合
③3.5%:労働力人口のなかで完全失業の状態にある人の割合(公式の失業率)
④3.7%:完全失業の状態にある人と勤労意欲を失った(求職をやめた)人の合計の割合
⑤4.2%: ④のカテゴリーに、「縁辺労働者」(現在仕事がなく、仕事を求めているが、最近4週間は求職活動をしていない人)も含めた割合
⑥6.7%: ⑤のカテゴリーに、経済的な理由で(フルタイムで働きたいのに)パートタイムで働いている人を加えた割合

こうして見るとわかるように、これら6つの数値にはだいぶ差がある。公式発表される失業率③は、失業者の対象が最も広いカテゴリー⑥の半分ほどの数値でしかない。おまけに⑥は①の5倍以上の数値だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中