最新記事

ライフスタイル

「北欧各国は幸福度が高い」と話す人に伝えたい真実 世界を正しく理解するデータの読み方

2021年4月3日(土)12時40分
バーツラフ・シュミル(マニトバ大学特別栄誉教授) *東洋経済オンラインからの転載

例えば、あなたが失業したとしよう。その場合、あなたが引き続き新たな職をさがしていなければ、失業者としてカウントしてもらえないかもしれない。求職活動をやめてしまったら、もう失業者としてはカウントされない場合があるのだ。

だから、いわゆる「真の失業率」にできるだけ近い数値を得たいのであれば、労働市場参加率(生産年齢人口に占める労働力人口の割合)を見なければならない。アメリカでは1950年に約59%で、その後、半世紀ほど上昇を続け、2000年春に67.3%のピークに達した。

ところが、そこから減少に転じ、2005年秋には62.5%にまで下落した。その後はゆるやかに上昇し、2019年末には63.2%になっている。そして当然のことながら、年齢階級別の差は大きい。労働市場参加率がいちばん高いのは35~44歳の男性で、約90%だ。

さて、ヨーロッパの失業率に目を向けてみると、ある国で住民同士がどれほど強い結びつきをもっているか、住民がどれほど個人的に満足しているかなどを、失業率から推測するのはきわめて難しいことがわかる。

ヨーロッパで失業率がいちばん低いのはチェコで、2%と少し。一方、スペインは長年、失業率が高い状態に耐えていて、2013年には26%を超え、2019年後半になっても14%を超えている。その後、わずかに減少したものの、2019年には若者の約33%が失業状態にあった。スペインで就職活動をしている人がこの数字を見れば、暗澹たる気分になるだろう。

ところが、チェコの幸福度はスペインより8%高いだけだ。一方、チェコの自殺率は10万人当たり8人強で、スペインの3倍ほど高い。それでも、強盗事件はチェコのプラハよりスペインのバルセロナでよく起こっているのはたしかだ。

数字をどう受け止めるかは人それぞれ

ではスペインとイギリスを比較すると、どうなるだろうか。強盗事件の発生率を比べると、スペインのほうがイギリスよりわずかに高いだけだ。スペインの失業率はイギリスの4倍も高いというのに。

books20210402.jpgさあ、これでみなさんにもいくら失業率だけを見たところで、雇用や失業に関する複雑な現実は把握できないことがおわかりいただけたはずだ。

政府が公表する統計では失業者に含まれても、家族の支援や非公式労働のおかげでどうにか暮らしている人は多い。

それに統計上は完全な就業状態に当てはまるとしても、現状に不満がありながらも転職がむずかしかったりできなかったりする人も大勢いる。

たしかに、数字はウソをつかないだろう。でも、その数字をどう受けとめるかは、人それぞれというわけだ。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ、ベラルーシに核搭載可能ミサイル配備 欧州全域へ

ワールド

仏独、中国の台湾周辺軍事演習に懸念表明 一方的な現

ワールド

ウクライナ、米軍駐留の可能性協議 ゼレンスキー氏「

ワールド

ロ、和平交渉で強硬姿勢示唆 「大統領公邸攻撃」でウ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中