銃社会アメリカの「スキルの低い警官」と警察内人事制度の関係
見逃すべきではないポイントがある。そうした恐怖心を抱いているのは、警官たちも同じということだ。例えば前述のジョージ・フロイド氏は警備員などをしていた普通の市民だが、背が高い巨漢でもあった。それが白人警官たちの警戒心を誤って刺激し、差別感情の原因になっていったというのである。
要するに、非常に単純化して言えば、「黒人として人権意識とプライドがあるから逮捕を従順に受け入れない」という姿勢が、警官にとっては「危険で反抗的だから最大限の注意を払って無害化しなくては」という差別感情になる、そして「黒人の巨漢が抵抗しているのだからマニュアル通りに無害化が優先される」という暴力の正当化が行われるというわけだ。(202ページより)
コミュニケーション能力、格闘能力に欠ける警官もいる
また、そこには「警察の問題」も絡んでいるという。先に触れた複雑な組織体系もさることながら、個人的に特に気になったのは"柔軟な人事"だ。
大学進学ができなかった人材でも、高卒資格でポリス・アカデミーに学び、その卒業資格(サーティフィケーション)を獲得すればフルタイムの警官への道が開ける。実績を上げていけば、上のポジションを目指すことも可能だ。
アメリカの場合、大学の単位は一生有効なので、夜学へ通って単位をコツコツと貯めていけば、30代や40代になって大卒資格を得、改めて管理職を目指すというチャンスもある。
成績がよく、高度な訓練のコースを完了したりすれば、チーフ(署長)になれたり、エリート集団のSWATに入ることも夢ではない。他にもさまざまなチャンスがあり、可能性を広げていくことができるわけだ。
しかし問題は、その一方に存在する成績のよくない警官だ。学位のない形で、ポリス・アカデミーを振り出しに現場でのパトロールなどを続けるなか、勤務成績がよくなければずっと現場の仕事を続けなければならない。しかも地方の小都市では、どうしても給与が頭打ちになる。
黒人人口が圧倒的な貧困地区に大勢の白人警官がいて、しかも黒人住民と良好な関係を築けていないという問題の背景にも、こうした労働市場の問題が絡んでいるらしい。端的に言えば、"警官の質"が落ちてしまうのである。
基礎能力、基本的な判断能力、知的な思考力、そうした能力を補って余りある経験と経験に学ぶ力、そうした総合力が著しく欠けていると、特に銃社会のアメリカでは警官の任務遂行は困難になる。
白人警官が黒人に対して過剰な暴力を加える背景には、(中略)仮に相手が武装していなくても、格闘の結果として銃を奪われる恐怖があるという問題がある。(213ページより)