銃社会アメリカの「スキルの低い警官」と警察内人事制度の関係
Newsweek Japan
<なぜ銃規制が一向に進まないのか。なぜ白人警官による黒人市民の殺害が起こるのか。それを知るためには、アメリカの複雑な警察組織を理解する必要がある>
米ミネソタ州ミネアポリスで「ジョージ・フロイド事件」が起きたのは2020年5月のこと。アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイド氏が白人警官に首を8分46秒圧迫され命を落としたこの事件は、「BLM(ブラック・ライブズ・マター)」運動へ結びついていった。
そのため必然的に警察への批判が高まっていったわけだが、批判の根底にあるもの、そして白人警官による黒人市民への一方的な殺害行為が起こる"背景"が見えにくいことも事実だ。
この問題はアメリカという社会の暗部であるが、同時にアメリカの警察組織が苦闘している問題でもある。そして、その背景には銃社会アメリカという問題がある。憲法が、国民の「武装の権利」を事実上認めているアメリカでは、警察の治安維持行動にも困難が伴っている。
そんな中で、個々の警察官の多くは誇りを持って仕事をしているし、多くのコミュニティでは市民が警察に信頼を寄せているのもまた事実である。(「はじめに」より)
『アメリカの警察』(冷泉彰彦・著、ワニブックスPLUS新書)の著者は、米国在住のジャーナリスト・作家としての立場からこう指摘する。そこで本書では、「苦しみつつも日々のアメリカを支えている警察」の独自性に焦点を当てているのである。
大きな問題は、アメリカでは「大小さまざまな警察組織がバラバラに独立していて、その全体が混沌としながらも秩序を作っている」点にあるようだ。組織と人事のあり方が非常に複雑だということで、本書でも第3章までがその構造の解説にあてられている。
まずはそこを理解しておく必要があるわけだが、そうした上でもなお気になってしまうのは、"進まない銃規制"や"人種差別"に焦点を絞った第4章以降だ。
深刻な銃乱射事件が頻発しているにもかかわらず、なぜアメリカ社会では銃規制の議論が進まないのだろうか。
共和党が銃規制に反対していること、そしてその背後にあるNRA(全米ライフル協会)の存在が原因であることは間違いないだろう。2017年から2021年1月にかけてのトランプ政権時代に、NRAを中心とした銃保有派の意見が国政を「ジャック」したような形になったことは記憶に新しい。
では、なぜNRAに代表される銃保有派はいつまでも強硬なのだろうか。著者によれば、そこには明確な理由があるらしい。
銃保有派、そしてNRAは「自分たちが銃を持ち、銃が撃てるようになれば強くなれる」から銃を保有したいのではない。まして「何者かを攻撃したい」とか「殺したい」からではない。そうではなくて「自分たちが銃の被害に遭うのが怖い」から、そして「自分の家族を守りたいから」銃を持ちたがるのである。心の底から「自衛」したいし、「自衛しないと怖い」というのが銃保有派の心理である。(150ページより)