最新記事

感染症対策

現役医師が断言、日本の「ゆるいコロナ対策」が多くの命を救った

2021年2月17日(水)20時40分
大和田 潔(医師) *PRESIDENT Onlineからの転載

さてここで、日本の流行を見てみましょう。

2019年末の計測できなかった大流行はさておいて、冬の流行は多い時でも1日に7000人ほどですでに下火になりました(注16)。こちらも昨年予想した2月ごろまでに急減するとお示しした通りに推移します。

皆さんご存じの通り、昨年4月の緊急事態宣言に引き続き2回目が出されています。1回に比べると国民は緩い対応をしています。前回はGDP30%実質14兆円の損害を出したのに比べ、今回は半分の被害で済んでいます(注17)。

菅義偉首相は2日、栃木県を除く10都府県で3月7日まで延長することを表明しましたが、流行が落ち着くにつれ一つずつ規制が解かれていくのではないかと思っています。

コロナウイルス対策による被害の要因

まとめると、新型コロナウイルスによる被害は以下の3点に要約されると思います。

1.人類は、完全に封じ込めることはできない。必ず、散発し蔓延する。
2.その国の医療体制の普及充実度や国民の公衆衛生に依存する。
3.季節性コロナウイルスやワクチンによる獲得免疫が影響する。

日本では、2と3が完備されていたので、1に対応したユルユル型の管理が功を奏しました。とてもよい方策だったと考えています。欧州では医療費削減により2が、インドは2と3が十分ではなかったことが推測されます。

日本では、厳しい規制を行うとそれによる被害の方が大きくなってしまいます。1年以上経過し、国民の集団免疫は上昇しました。疫病は、ふつうは国土に広まった最初が一番被害が大きいものです。変異型にも、この期間に追加獲得した免疫による交差免疫で対応できることでしょう。

緩い日本のコロナ対策はむしろ多くの命を救った

リアルな生活は人を守ります。

私は、緊急事態宣言でも通勤電車に乗り診療を続けました。患者さんもがんばってクリニックを受診されました。採血、検尿、心電図、画像などの外来検査で大病が発見できた方がたくさんいらっしゃいました。

胆石による閉塞性胆管炎、虫垂炎、尿管結石の方もいました。心臓にステントを入れたり、大動脈や膵臓、婦人科の手術をされた方もいました。緊急を要する脳の病気がMRIで判明した方もいらっしゃいます。リモート診療では行えない判断でした。

コロナで混乱・遅延する外来をかき分け、総合病院の先生方と協力して加療しました。感謝される患者さんの電話をひきつぐスタッフも皆、クリニックを開け続けたことを誇らしく思ってくれています。医療現場では、感染症の一部にすぎないコロナ以外の病気対応の方がはるかに多かったのです。

もし、欧米のような厳しいロックダウン(都市封鎖)が長期間なされ、私がクリニックに行けなかったり、患者さんが家で症状を過剰に我慢してしまったりしていたら手遅れになっていました。日本のコロナ対策がユルいからこそ、むしろ多くの命を救うことができたのです。

また、私のクリニックには妊婦の患者さんが来院されます。コロナ禍と言われる最中でも、新しい命の誕生に携わることができました。今、お子さんの誕生を待っている患者さんも複数いらっしゃいます。最近では、ある栄養士さんは出産を経て、元気に復職されました。医師としてうれしいエピソードです。

このように管理のユルさで得た恩恵がたくさんあったのです。掘り起こしPCRで市中の無症状陽性者を発見し、警察が取り締まったりしていたら、悪影響の方が甚大でした。診療も出産(計画)も見送らざるを得なかったかもしれません。

変わらない日常が心身を守る

診療以外でも、私は何も気にせず新型コロナのPCR検査で陽性だった方や濃厚接触者になった方とも普段通り仕事をしてきました。

先日、ある方から「先月コロナ陽性だったのですが、お伺いしても良いですか?」と尋ねられた時は驚きました。「気にしないで一緒にお会いして仕事しましょう」と答えたところ、「普通に仕事していいかどうか心配でした。感動です」とおっしゃっていました。咽頭炎や胃腸炎、インフルが治ったことを気にする人はいないでしょう。新型コロナも、それと同じ話です。

感染が国内で広がり始めたころ、1歩でも外に出たらウイルスを吸い込むかのようにメディアが視聴者を脅していた時期がありました。しかし私は基準を守り仕事を続けました。私のように、フェイクを排してファクトに基づいて同じペースで仕事を継続してきた方も多いでしょう。

国が国民を信頼しちょうどいい制限を与え、民度の高い国民がそれに応えた日本式の勝利だと思っています。陽性者数とPCR検査を連呼するメディアは有害無用でした。

私は食材を買いにスーパーに出かけ食事に気をつけ外で外気の中で運動し、コロナ中に体調を整えました。海外のように、厳格にひきこもりを強要されていたら体だけでなく心の健康も損なっていたに違いありません。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中