最新記事

ロシア

ロシアの政権転覆が成功しない理由──ナワリヌイとエリツィンは違うから

An Impossible Revolution

2021年2月1日(月)18時40分
ジェフ・ホーン

magw210201_Russia3.jpg

ロシアに帰国するための航空便に搭乗したナワリヌイ POLINA IVANOVA-REUTERS

ロシアは、そしてプーチン体制はレベルが違う。歴史的に、ロシアでは権力と権威が一体化している。権力者の権威を高めるために、あまたの国家機関が総動員される。その主力は、ロシアで言えば内務省(の管轄する警察)と連邦政府の軍隊、そして権力に忠実な治安部隊だ。

これらの機関をはじめとする強大な官僚機構と政治制度に対する支配力を保つため、権力者は「アメとムチ」を駆使して部下の服従と忠誠を確保する。帝政ロシアの時代から、それは変わらない。

プーチン独裁の体制でも、いわゆるオリガルヒ(新興財閥)が生き延びるためにはプーチンに絶対的な忠誠を誓う必要がある。しかしソ連崩壊後に石油の利権を握って大金持ちになったミハイル・ホドルコフスキーはプーチンに盾突いた。そして排除された。同じようなことが中央でも地方でも起きており、それを暴いてきたのがナワリヌイだ。

言うまでもないが、ロシアでは何度も革命が起きている。だが革命が成功する前には必ず、既存体制の権力基盤が崩れ始めていた。例えば日露戦争での敗北後に起きた1905年の革命。全く想定外の敗戦だったから、失望した民衆の抗議活動や武装蜂起が続発した。それらは全て暴力的に鎮圧されたが、皇帝の権威は傷ついた。

やむなく皇帝ニコライ2世は改革に踏み切り、憲法の制定や議会の創設に応じた。しかし2年後、1907年の反革命クーデターでニコライ2世は復権を果たし、新設の議会を形骸化させてしまう。

それが可能だったのは国家機関の内部に、あくまでも皇帝に忠誠を誓う部隊がいたからだ。具体的に言えば秘密警察と軍隊、そして身辺警護のコサック軽騎兵だ。

しかしこれらの部隊も、1917年のボルシェビキ革命では皇帝とその体制を守り切れず、帝国の命運も皇帝の命も絶たれた。3年来の世界大戦で、軍隊も国内経済もすっかり疲弊していたからだ。

思えば1825年にはデカブリストの乱があり、1881年には皇帝アレクサンドル2世の暗殺があった。そうした積み重ねで、1917年のロシア革命は成就したのだ。

エリツィンの巧妙さ

そして旧ソ連から現代ロシアへの(それなりに平和的な)革命に当たっても、実は複数の要素が複雑に絡み合って反体制派を利していた。あのとき民衆を率いたのはボリス・エリツィンだが、彼もナワリヌイ同様に大衆の不満をうまく利用し、いわゆるポピュリスト(大衆迎合主義)の戦術で勝負した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中