最新記事

バイデンvs中国

「中国に甘いバイデン」は誤解、対中改善しようにも手は限られている

CAN BIDEN RESET CHINESE RELATIONS?

2021年1月22日(金)17時30分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

バイデンは対中国で同盟諸国も巻き込んだ戦略を打ち出してくる ILLUSTRATION BY REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<では、どうするか。バイデンも中国の勢いを封じるため総力を挙げるが、求められるのは対立しつつ協力を仰ぐ高度な二正面作戦。トランプ時代と決定的に異なる対中戦略の3本柱、似て非なる戦術とは?>

(本誌「バイデンvs中国」特集より)

史上最高齢でホワイトハウスの主となるジョー・バイデン。彼が米政界きっての外交通であることは周知の事実だが、その指導力が試されるのは中国との関係だ。この御し難い大国と対峙しつつも協力していく持続可能で実効性のある戦略を、果たして描けるだろうか。
20210126issue_cover200.jpg
言うまでもないが、前任者ドナルド・トランプから引き継ぐ米中関係の現状は奈落の底に向かっている。外交ルートの対話は途絶し、あるのは口汚い非難の応酬だけ。経済面では貿易戦争と技術戦争が激しさを増すばかりで、双方ともデカップリング(経済関係の断絶)が国益にかなうと考えている。軍事面でも互いを最大の脅威と見なし、台湾海峡や南シナ海、朝鮮半島での衝突への備えに余念がない。

前任者トランプの中国政策はあまりに乱暴でお粗末だったが、単純ではあった。何が何でも中国のパワーをそぐ、その一点張りだった。だからデカップリングがアメリカ経済に及ぼす長期的な影響を考慮する必要もなかった。アメリカは偉大だと信じる一国主義者だから、対中政策で同盟国の支持を得るために骨を折ることもなかった。もともと気候変動を否定していたから、その問題で中国と協力する必要もなかった。

中国を国家安全保障上の最大の脅威と見なし、その勢いを封じるためにアメリカの総力を挙げるという点では、民主党のバイデン政権も共和党のトランプ政権と大差ない。だがバイデンは前任者と違って、もっと巧妙かつ持続可能な長期戦略を模索するだろう。

総論的に言えば、その戦略を支える柱は3つあり、いずれもトランプ時代の対中戦略とは決定的に異なるはずだ。

対中戦略の新たな3本柱

第1の柱は、中国を弱体化させるよりもアメリカの経済力・技術力の強化を優先すること。その背景には、経済成長も技術開発も中国のほうが速いため、このままでは流れを変えられないという危機感がある。具体的には国内での教育や医療、製造業や技術部門に対する連邦政府の投資を増やすことになるだろう。

第2は、ヨーロッパやアジアにいる従来からの同盟諸国を糾合して共同戦線を張ること。ハードパワーに関してはアメリカは単独でも中国を圧倒しているが、各国の力を合わせれば中国との新冷戦に勝利できる確率がぐっと高まる。ただし各国の足並みをそろえるには、経済面でも安全保障面でも同盟国との関係を強化し、主要な問題では各国と真摯に協議することが必要になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ

ワールド

再送-日鉄副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中