最新記事

原子力

火星までの移動日数を半分に 原子力推進技術でイギリス宇宙局とロールス・ロイスが提携

2021年1月14日(木)18時30分
松岡由希子

ロールス・ロイスは、過去60年にわたりイギリス海軍の原子力の分野で数多くの実績を培ってきた...... Rolls-Royce

<火星までの移動時間を現在の半分の3〜4ヶ月にまで短縮できると考えられている「原子力推進」技術の研究で、イギリス宇宙局と英自動車大手ロールス・ロイスが提携した......>

イギリス宇宙局と英自動車大手ロールス・ロイスは、2021年1月12日、宇宙探査への原子力技術の活用に関する研究において提携することを発表した。

アマンダ・ソロウェイ科学担当大臣は「原子力は宇宙探査に変革をもたらす可能性を秘めている。ロールス・ロイスとの革新的な研究によって、次世代の宇宙飛行士をより速く、より長期にわたって宇宙に送り込み、宇宙の知見を大きく増やすことができるだろう」と期待を寄せている

太陽から離れていても動力が確保できる

原子核の分裂で放出される膨大なエネルギーを用いる「原子力推進」は、既存のロケットの動力源である化学ロケットエンジンに比べて効率が2倍高く、火星までの移動時間を現在の半分の3〜4ヶ月にまで短縮できると考えられている。火星や他の惑星への移動時間を短縮できれば、宇宙飛行士の宇宙放射線被曝量の大幅な軽減にもつながる。

原子力推進は、太陽から離れていても動力が確保できる点でも優れている。外太陽系では太陽光が薄暗すぎてソーラーパネルで発電できず、燃料電池などの他の手段では、エネルギー源として安定していないのが難点だ。

ロールス・ロイスは、過去60年にわたり、イギリス海軍の原子力潜水艦に搭載する原子力推進プラントの設計・調達・サポートを担うなど、原子力の分野で数多くの実績を培ってきた。

ロールス・ロイスのデーブ・ゴードン英国上級副社長は「宇宙に向けた未来の原子力技術を決定づける先進的なプロジェクトにイギリス宇宙局とともに取り組むことを楽しみにしている」と抱負を語っている。

Rolls-Royce-Moon.jpg

Rolls-Royce

米国政府も宇宙での原子力の活用を推進

米国では、すでに1950年代、米ネバダ州の実験施設において原子力技術の宇宙船への活用に着手している。最近では、2020年10月に、シアトルを拠点とするスタートアップ企業のウルトラ・セーフ・ニュークリアー・テクノロジーズ(USNC-Tech)が、宇宙飛行用の熱核推進(NTP)システムに関する研究の一環として、原子力推進のコンセプトをアメリア航空宇宙局(NASA)に提案した。

米国政府も、2020年12月16日に発表した「宇宙政策指令第6号(SPD-6)」において、宇宙での原子力の活用を推進している。

イギリス海軍向けに提供するロールス・ロイス Rolls-Royce | Technology for Naval platforms

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中