最新記事

BOOKS

日本は新興国から「デジタル化・DX」を学ぶべき時代になった

2020年12月30日(水)10時55分
高口康太(ジャーナリスト)

もちろん、デジタル化はすべての面においてメリットだけをもたらすわけではない。

本書によれば、省人化に伴う雇用減や、情報発信コストの低減に伴うフェイクニュース、さらには人工知能(AI)を活用して本物そっくりの虚構の動画を作成できるディープフェイク、あるいは大手ITプラットフォーマーによる寡占、デジタル監視社会といった課題も含め、新興国には先進国以上のダメージになるという。

伝統的な製造業という雇用基盤がないところでの省人化、信頼できるメディアが発展していないところでの情報社会化、小売りチェーンなど伝統的企業が未成熟なところでのプラットフォーマーの参入、民主主義が未熟な段階でのデジタル監視技術の導入によって、デジタル化の与える影響は先進国をはるかに上回る。

本書には「可能性もリスクもケタ違いになる」との印象的な惹句の帯が付けられているが、まさにこの言葉どおり、想像をはるかに上回る激変が起きているというわけだ。

新興国生まれのサービスを日本に還流させ、ルール作りにも参加する

本書は新興国がどのようにデジタル化しているか、それがどのような影響を与えるかについて、大きな見取り図を描く。だが、それだけにとどまらず、日本が新興国とどのように関わるかについて考察している点も興味深い。

戦後、日本と新興国の関係は4つの段階に分けられると本書は指摘する。

1:1960~1970年代の「南北問題の時代」においては、政府開発援助の提供者
2:1980~1990年代の「工業化の時代」においては、先進工業国として政府開発援助と直接投資の提供者
3:2000~2010年代前半の「市場の時代」においては、グローバルな生産ネットワークの拡大やインフラ投資、資源貿易の主導者
4:2010年代後半以降のデジタル化の時代

我々がいま身を置くデジタル化の時代、日本は新興国との関係において、どのような役割を担うべきかがまだ定まっていないという。

「工業化の時代」にはトヨタ生産方式に代表される先進的な管理方式を伝道し、「市場の時代」においてはいわゆる質の高いインフラの提供者として振る舞った。そうした日本の役割がいまだに不透明なままなのだ。

この課題について本書は「共創パートナーとしての日本」というアプローチを提言する。新興国の状況とそのデジタル化の進展に関心を持ち、学び、生み出された新たなサービスを日本国内に還流させること、新興国とともにデジタル化をめぐるルール作りに参加することが重要となる。

かつては教師として振る舞っていた日本が、今度は新興国から学ぶ立場になる。本書の提言に日本の衰退を感じる人もいるだろうが、この現状に目をそらさず向き合うことが求められている。


デジタル化する新興国――先進国を超えるか、監視社会の到来か
 伊藤亜聖 著
 中公新書

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版新書)、『プロトタイプシティ』(共著、KADOKAWA)、『中国S級B級論――発展途上と最先端が混在する国』(編著、さくら舎)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルサール、中国向けアルミの一部を日本に振り向けへ 

ワールド

中東の26年GDP、1.8%増に下方修正=世銀報告

ワールド

焦点:停戦はトランプ氏の「大誤算」か、イラン体制健

ワールド

イラン、和平交渉「不合理」 イスラエルのレバノン攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 4
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 5
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 6
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    アメリカとイランが2週間の停戦で合意...ホルムズ海…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 9
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 10
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中