最新記事

BOOKS

日本は新興国から「デジタル化・DX」を学ぶべき時代になった

2020年12月30日(水)10時55分
高口康太(ジャーナリスト)

出前代行のウーバーイーツ、アマゾンから個人が直接配送業務を請け負うAmazon FLEXなど、近年ではギグエコノミーが急速に広がっているが、その前提は大多数の人間がスマートフォンを通じてモバイルインターネットに接続していることにある。

携帯電話を通じて個人が指示を受け取り、そのリアルタイムの位置情報を企業に送る。こうしたデジタルインフラが世界の大多数の地域で整備されたことで、同様のサービスがさまざまな国で展開できるようになった。

回線品質の差こそあれ、全世界で情報インフラが確立されたことは大きな転換をもたらしたと本書は指摘する。かつては先進国こそがデジタルサービスの中心地であったが、今後は世界人口の80%超を占める新興国、途上国こそがインターネットの中心になるのだ、と。

新興国のデジタル化は一見すると、ニッチな話題に思えるが、俯瞰した視点に立てば、むしろメジャーなテーマというわけだ。

「課題解決」「飛び越え型発展」という2つのポイント

今、新興国から次々と新しいデジタルサービスが登場している。スマートフォンを使った送金、決済。ドローンを使った配送。生体認証による本人確認システム。

ブロックチェーンを活用したデジタル通貨など、日本でも導入が取り沙汰されながらも遅々として進まないサービスが、新興国ではいち早く実用化されているケースは枚挙に暇がない。

本書は「課題解決」「飛び越え型発展」という2つのポイントを指摘する。広く共有されている社会課題、いわゆるペインポイントを解決すれば、大きな付加価値が生まれる。それが「課題解決」だ。

かつて、世界に先駆けて超高齢化社会に突入する日本は課題先進国であり、その解決策を世界に展開すればチャンスが生まれるという話がよく聞かれた。現実はというと、経済成長が遅れ、さまざまな制度が整っていない新興国こそが問題山積みの超課題先進国であったというわけだ。

中国IT大手アリババグループの創業者である馬雲(ジャック・マー)は「ペインポイントが大きければ大きいほど、チャンスは大きい」と発言している。その意味で、新興国には新たなビジネスを立ち上げるチャンスが無数にあると言えよう。

そして「飛び越え型発展」だが、ATM網が発展する前にモバイル決済が普及するという具合に、先進国とは同じ段取りを踏まず、一気に「飛び越え」て最新の技術トレンドを取り入れようとする動きを指す。

遅れた状況から最新の技術へと一気に更新すれば、それだけ高い付加価値を得ることができる。また、一世代前の競合がいないため新たな技術を導入する際の障害も少ない。「課題解決」にせよ、「飛び越え型発展」にせよ、ネガティブに見られていた要因が、新興国ではデジタル化を推進する上でポジティブに働くとの逆説である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中