最新記事

アメリカ大統領選 中国工作秘録

中国への頭脳流出は締め付けを強化しても止められない......「千人計画」の知られざる真実

A THOUSAND HEADACHES

2020年11月19日(木)17時45分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

そのため、「千人計画」に参加する研究者はたいてい、欧米でのキャリアを捨てずに済む短期プロジェクトを選ぶ。中国としては誰も来ないよりはましだが、長期プロジェクトに世界トップクラスの研究者が参加するメリットには遠く及ばない。最先端の科学プロジェクトはほとんどが本質的に長期に及び、常に上級研究者の監督・指導を必要とする。しかも、短期プロジェクト参加者は研究者として業績を認められる可能性よりも経済的見返りが目当てだろう。

国外の研究者が短期プロジェクトの経済的見返りを目当てに参加するという「千人計画」の重大な弱点が、計画の破綻を招いている。少なくとも在米の中国系研究者ではそうだ。

産業スパイは立証困難だが

米政府によれば、2018年に「千人計画」に参加した在米の研究者・科学者は2629人。そのアメリカでの勤務先の内訳は3分の2が大学、600人が米企業、300人が米政府および政府の研究機関だった(例えば米国立衛生研究所〔NIH〕は倫理違反や外国の影響が疑われる140人を調査中と報じられた)。

magSR201119_1000china3.jpg

NIHなどの政府機関にも「千人計画」参加者が LYDIA POLIMENI-NATIONAL INSTITUTES OF HEALTH

米中関係がまずまずだった頃は、米当局は知的財産流出を懸念しながらも「千人計画」に参加する中国人研究者を取り締まってはいなかった。だが両国が新たな冷戦に向かうなか状況は一変。2018年、米司法省は中国による産業スパイ活動を摘発する「中国イニシアチブ」を立ち上げ、矛先が「千人計画」にも向けられた。

ニューヨーク・タイムズなど主要紙の報道からは、産業スパイや知的財産盗用の立証は難しかったことがうかがえる。学術交流はオープンかつ合法的で、不正の証拠を集めるのは至難の業だ。米司法省が「千人計画」との関連を調査したケースで産業スパイ容疑で訴追されたのは1件のみだった(コカ・コーラに勤務していた中国系研究者)。

だが、同計画の短期プロジェクトで補助金を受給している旨を米政府に開示しなかったなどの理由で摘発するのは比較的容易だ(アメリカの法律は政府資金の受給者に全ての資金提供の開示を義務付けている)。「千人計画」が出資する研究機関との短期雇用契約を開示しなかったとして大学や研究機関から解雇されたケースもある。ハーバード大学の化学部門の責任者チャールズ・リーバー教授は、中国との関係について米当局に虚偽の説明をしたとして逮捕された。同計画で得た報酬を申告せず、脱税容疑で訴追された例もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中