世界がスウェーデンに抱く「モデル国家」という虚像
WHY SWEDEN IS NOT A MODEL
この変化に外部の世界が気付くまでに何十年もかかった。スウェーデンを「より良い未来への海図」と見なす外国人は、この国の現実にはあまり関心を持たなかった。しかし、パンデミックは変化のプロセスを一気に加速させた。
それをはっきりと示したのが、ボリス・ジョンソン英首相がスウェーデンの疫学者アンデシュ・テグネルに新型コロナ対策を相談したというニュースだ。これでこの国のイメージが一変した。マスク着用義務化やロックダウンを拒否するスウェーデンは今、リバタリアンを熱狂させている。
現実よりあるべき姿が大事
こうした措置がスウェーデン国内で猛烈に批判されていることは、国外ではあまり報道されていない。4月には2000人以上のさまざまな分野の科学者(関連分野の権威や現役の研究者を含む)が、この戦略を酷評する公開書簡に署名している。
言うまでもなく、国内外のリバタリアンの熱狂は、この国ではパンデミックの初期段階で非常に多くの死者を出し、輸出依存型経済に多大な損害を与えた事実を無視している。そして実際にテグネルの主張をよく調べると、抽象的な自由より長引く経済不振による健康への影響をはるかに心配していることが分かる。
この手放しの熱狂は、スウェーデン崇拝の外国人やいいかげんな報道の責任とばかりは言えない。スウェーデンの政治家も、事態は計画どおりに進んでいるという見方を強調する。彼らもまた、自国の現実より「海図」をはるかに信頼している。
スウェーデンが極めて寛容な移民政策を取っていた数十年間を見れば明らかだ。この政策は全ての主要政党から支持されていた。反対したのはスウェーデン民主党のみ。同党は1980年代に貼られたファシストのレッテルを長いこと払拭できずにいた右派民族主義政党だ。
2010年までには、豊かで快適な都市部を除くスウェーデンの地方は移民を歓迎していないことが明らかになった。地方の有権者に話を聞くと、多くが移民には問題があると答えた。移民はスウェーデン流のライフスタイルに関するコンセンサスに従わず、スウェーデン人としてどう振る舞うべきかを理解しているとは思えない、と。
筆者は2010年の総選挙前に、当時のニャムコ・サブニ統合融和・男女平等相(ブルンジ出身)に、世論調査の予測どおりスウェーデン民主党が議会で議席を獲得したらどうする計画なのかを尋ねた。彼女は、そんなことは考えられないと答えただけだった。あり得ない話なので、それに備えた計画もなかったのだ。
結局、スウェーデン民主党は初の議席獲得に必要な得票率を50%近く上回る5.7%の支持を集めた。他の全ての政党は彼らを完全に無視したが、4年後の総選挙では得票率12.9%を記録した。