トイレを作っても野外排泄をやめない男たち... インドのトイレ改革「成功」の裏側
たとえ村人の中に野外で用を足している人がいたとしても、トイレを一定程度設置して、使える環境を整えたのなら「野外排せつゼロ」と宣言してもいい。それが、アンダンプラ村が「野外排せつゼロ」を宣言できた理屈だった。驚いたのは、その「理屈」はベニウェルが勝手に思いついたのではなく、政府の担当者から説明されていたという点だ。事実をねじ曲げた「誇張」は、政府のお墨付きだったのだ。そうなってくると、モディが高らかに宣言したインド全土での「野外排せつゼロ達成」は、ずいぶんと怪しくなってくる。
トイレ設置が進んでも野外排せつが減らない
そうした疑念を裏付けるデータがある。経済問題を扱うインドの非政府組織(NGO)「r.i.c.e.(Research Institute for Compassionate Economics)」が、四つの州を対象にして行ったトイレの設置や使用状況、野外排せつに関する調査だ。r.i.c.e.が調査を実施したのは東部ビハール州、中部マディヤプラデシュ州、北部ウッタルプラデシュ州、そしてアンダンプラ村のある西部ラジャスタン州。いずれも農村部が多いエリアで、この4州がインド全体の農村部人口の約4割を占めている。「スワッチ・バーラト」がスタートした2014年と、ゴール間近い2018年の2度にわたって調査を行っており、農村部でトイレ普及がどれだけ進んでいるか、その傾向を知ることができるというわけだ。
最も興味深いのは、2018年の段階で4州の人口の44%が、依然として野外排せつを行っていたというデータだ。2014年は70%だったことを考えると、4年間で大きく減少したことは間違いない。だが、ビハール州以外の3州は、2018年の時点で早々と「野外排せつゼロ」を宣言してしまっている。野外排せつをする人が減少しているのは事実だとしても、一気に「ゼロ宣言」まで行ってしまうのは、さすがに行き過ぎだろう。
2014年に「野外排せつをしている」と回答したのは、ラジャスタン州の76%を筆頭に、ビハール州(75%)、マディヤプラデシュ州(68%)、ウッタルプラデシュ州(65%)で、いずれも6割以上を示していた。その割合は、2018年にはマディヤプラデシュ州で25%、ウッタルプラデシュ州では39%にまで減少しているものの、ラジャスタン州は53%、ビハール州が60%と、この2州では依然として高い水準を維持している。アンダンプラ村で多くの男性がいまだに外で用を足していることを考えれば、この数字は決して実態とかけ離れたものとは言えないだろう。
r.i.c.e.は報告書の中で、「スワッチ・バーラト」によって野外排せつをする人が減る効果が出ているとしながらも、「(スワッチ・バーラトの)ウエブサイトはトイレの普及を大げさに見せている。野外排せつを2019年10月2日までに根絶できないのは、ほとんど明らかだ」と言い切っている。この調査で興味深いもう一つの点は、家庭へのトイレ設置が進んでも、野外排せつが減ることには直結していないことだ。