エイズ患者に不当な風評「HIV陽性者はコロナ感染リスクが高い」 コロナ禍で対策が数年も逆戻り
ブランタイアで活動するマラウイの医療啓発活動家グレイス・ングルベ氏(25歳)は、「咳やくしゃみをしただけで、新型コロナでないかと疑われてしまう。HIV陽性者であることが知られていると、それがさらに顕著だ。人々は今、自分がHIV陽性であるかどうかをオープンに口にすることさえ恐れている」と話す。
「通院するのも怖い」
米疾病管理予防センター(CDC)によれば、HIV陽性者が新型コロナウイルスに感染した場合に重症化するリスクの主要な原因は、CD4細胞の数が少ない、つまり効果的な抗レトロウイルス療法を受けていないことだという。
UNAIDSのシーゼイ氏によれば、マラウイのHIV陽性者110万人のうち、抗レトロウイルス療法を受けているのは約80万2000人である。
マラウイにおける新型コロナウイルスの感染拡大は、これまでのところ比較的穏やかである。アフリカ疾病予防管理センターによれば、感染者は5800人、死者は約180人である。
だがパンデミックによる経済への打撃は深刻であり、政府は予算資源を医療分野に回さざるをえず、財政赤字を補填し食料安全保障を確保するために外部からの資金調達を模索している。
また1800万人近い人口を抱えるマラウイ国内の支援グループや医療施設では、HIV/AIDSなどの主要な公衆衛生上の危機に関する治療や啓発キャンペーンについて再考せざるをえなくなっている。
「男性の自発的な包皮切除やHIV啓発プログラムは中止された。多くの人々が集まることで新型コロナ感染のリスクにさらされないようにするためだ」とシーゼイ氏は言う。
地域開発を学ぶ22歳の学生ホープ・バンダさんによれば、彼女をはじめとするHIV陽性者は、最近訪れた病院でスタッフから疑いの目を向けられる経験をしているという。
ブランタイアの祖母の家で取材に応じたバンダさんは、「私たちの多くは今、病院に行くことを恐れている。入口のところで、保健手帳をチェックされるからだ」と話す。
マラウイの「保健手帳」には患者の病歴が記載されており、そこにはHIV陽性の有無も含まれている。
マラウイ保健省のHIV治療部門ディレクターを務めるローズ・ニイレンダ氏は、HIV陽性者が他と異なる扱いを受けているとするバンダさんの主張を否定する。
「それは事実ではないと思う」とニイレンダ氏は言い、喘息や結核でしきりに咳をしていれば、あるいは新型コロナ感染者と決めつけられる可能性はあるかもしれない、と言う。