コロナでグローバル化は衰退しないが、より困難な時代に突入する(細谷雄一)
コロナ禍で米中間の相互不信が増幅され、国際協調はさらに退潮している LEAH MILLIS-REUTERS(RIGHT), NOEL CELIS-POOL-REUTERS (LEFT)
<コロナ禍で人と物の往来が止まり、世界は「脱グローバル化」していくとも言われるが、どんな影響があるのか。11人の識者がその行く末を占う本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集から、細谷雄一・慶應義塾大学教授の論考を公開。ナショナリズムとグローバリズムは振り子のように推移してきた──>
国境を越えた人の往来が消えた。新型コロナウイルスの感染拡大が最も深刻化していた3月から4月にかけては、グローバルなサプライチェーン(原材料や部品の調達から製造、消費者の手に届くまでの流れのこと)が機能麻痺をした。
3月5日に開かれた政府の未来投資会議で、安倍晋三首相はそのような状況を受けて、「一国への依存度が高い製品で付加価値が高いものはわが国への生産拠点の回帰を図る」と述べ、その後4月の補正予算では、中国から日本にUターンする企業に向けた2200億円の移転費用のための会計を盛り込んだ。かつてのグローバル・サプライチェーンは後退していき、大量の人や物が国境を越えて動くグローバル化の時代は終わりつつあるのだろうか。
国際政治学者の一部は、従来われわれが見慣れてきた形でのグローバル化が、もはや終わりを迎えようとしているのではないかと論じている。確かに国境を越えた人の往来は、大きく制約されている。他方で、感染拡大が落ち着き、経済活動が復活しつつあるなかで、再び物流が動き始めている。
多くの企業は、果たしてこれからの経営戦略として、生産拠点を中国から国内へ回帰させるべきか、あるいは今後の中国の経済成長と市場規模を見込んで中国との取引を重視していくべきかという困難な選択を強いられている。国家も企業も、長期的な戦略を検討する上で、予測困難な未来をある程度見通さなければならない。
世界史の逆流は以前から
まず、確認しておきたいことがある。既に、コロナウイルスの感染拡大が進行する前から、グローバル化の後退を語る論考が少なからず見られたことである。すなわち、冷戦終結直後に語られていた、世界が「一つ」になるという楽観的なグローバル化への期待が、現在大きく後退していたのである。それはどういうことであろうか。
ドイツの若き俊英の哲学者、マルクス・ガブリエルは『世界史の針が巻き戻るとき』(2020年、PHP新書)において、「今日、移民問題や財政問題などを契機に、ヨーロッパではまさに『国民国家の復活』が起きています」と論じ、「何が理由であれ、古き良き十九世紀の歴史が戻ってきています」と述べている。
同様に、アメリカの保守を代表する論客であるロバート・ケーガンも2008年には、国家間の対立が顕著となった現実を直視して、次のように論じていた。「利害の衝突と大国の野望が、新世界秩序に代わる同盟と反同盟の構図をつくり、一九世紀の外交官にはおなじみの移ろいやすい同盟関係をもたらした」(『民主国家vs専制国家 激突の時代が始まる』徳間書店)