最新記事

ファーウェイ

中国はファーウェイ5Gで通信傍受する、英米の歴史からそれは明らか

STATE WIRETAPS GO BACK A LONG WAY

2020年8月6日(木)14時15分
カルダー・ウォルトン(ハーバード大学ケネディ政治学大学院研究員)

一党独裁国家の中国には、真の独立組織などない。米英の諜報機関がかつて通信会社を利用したように、中国政府がその気になれば、ファーウェイの通信機器を悪用しないはずがない。実際、2017年に制定された中国国家情報法は各企業に対して、必要とあれば国の諜報活動に協力するよう求めている。

イギリスの専門家たちは以前、5G網の「周辺」と「中核」部分を区別して、中国スパイが「中核」に触れられないようにすることは可能だと示唆していた。だが5Gの「仮想化」された通信網の中では、両者の区別が曖昧で、たとえ末端部分でもアクセスされれば脅威が増すという主張もある。

それに、「周辺」部分しか悪用できないとしても、中国政府が得る情報面での利益(そしてイギリスの国家安全保障の弱体化)は相当なものになるかもしれない。

中国が経済スパイ活動を展開して、イギリスの知的財産を盗み出す可能性もある。英国民に関する一見無害なデータが盗まれ、そこから英政府が秘密にしておきたい類いの(国防や安全保障に関わる)活動が明かされる可能性もある。中国がイギリスの5G網に片足を踏み込んでいる状態の中、イギリスの安全保障や諜報にまつわる情報が中国政府に渡る可能性は十分にある。

サイバー攻撃による破壊工作が行われる可能性もゼロではない。中国政府がファーウェイの通信機器を使って、国際的な危機のさなかに、あるいはサイバー攻撃の一環として、イギリスの電気通信網を破壊することもあり得る。

5G網にファーウェイの通信機器を導入するとどれほどの脅威がもたらされるのか、想像してみてほしい。それらの通信機器は、家庭やオフィス、通信インフラに内蔵される何十億台もの通信機器につながっている。それらの機器の多くはまともなセキュリティー対策を施されておらず、所有者はそれが通信網につながっていることさえ知らないかもしれない。イギリス社会に侵入するための「秘密の裏口」が何十億個もできることになるのだ。

アメリカもイギリスも、かつては通信会社との秘密契約を通じて通信機器に細工を施し、大々的な情報収集を行ってきた。その価値は十分に承知している。中国がファーウェイの技術に、それと同様の価値を見いださないはずはない。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の中、私たちはテレビ会議アプリのズーム(Zoom)を使う仮想化された生活に浸り、超高速の5G網はこれまで以上に魅力的なものとなっている。だがコンピューターの世界に「移住」しつつある私たちにとって、パンデミック前の脅威を忘れないこともまた、これまで以上に重要だ。

もしもファーウェイが中国ではなくロシアの企業だったら、イギリスはそもそも、自国の高速通信網への参入を認めていただろうか。

その答えは間違いなく「ノー」である。

From Foreign Policy Magazine

<2020年8月11日/18日号掲載>

【関連記事】米中スパイ戦争──在ヒューストン中国総領事館の煙は「21世紀新冷戦の象徴」
【関連記事】アメリカ猛攻──ファーウェイ排除は成功するか?

【話題の記事】
12歳の少年が6歳の妹をレイプ「ゲームと同じにしたかった」
異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲まない理由が悲しすぎる
中国は「第三次大戦を準備している」
ヌード写真にドキュメントされた現代中国の価値観

2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
楽天ブックスに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍の麻薬密売阻止、陸路でも近く開始 トランプ氏が

ビジネス

完全失業率10月は2.6%、雇用情勢底堅く 有効求

ビジネス

鉱工業生産10月は1.4%上昇、2カ月連続プラス 

ビジネス

米メディケアの薬価引き下げ、大半の製薬企業は対応可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中