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トランプ、ルペンよりもっと厳しい? 外国人の子供に国籍を与えない日本の「血統主義」

2020年7月29日(水)13時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

日本は両親のいずれかが日本人なら出生で国籍が得られる「血統主義」(写真はイメージ) Jacek_Sopotnicki/iStock.

<外国人労働者の法律相談を請け負う行政書士が遭遇した、在留資格など日本の法律をめぐる悲喜こもごものエピソード>

浅草で行政書士事務所を経営し、おもに外国人の在留資格取得や起業支援をしている細井聡(大江戸国際行政書士事務所)は、これまで多くの外国人と関わってきた。細井は、「10年後、20年後、いや5年後かもしれない、『同僚は外国人』という時代がすぐそこまで来ている」と言う。

ここでは、細井が最近上梓した『同僚は外国人。10年後、ニッポンの職場はどう変わる!?』(CCCメディアハウス)向けにコラムとして執筆されながら、紙幅の都合で割愛された在日外国人の在留資格をめぐるエピソードをいくつか紹介する。今回はその後編。

<未掲載エピソード紹介(前編):一夫多妻制のパキスタンから第2夫人を......男性の願いに立ちはだかる日本の「重婚罪」

◇ ◇ ◇


5.日本人なのにオーバーステイ!?

日本人なのに日本でオーバーステイになることがある。海外の話ではない。日本での話である。日本人と中国人との間に生まれたお子さんで、日本人のお父さんの戸籍謄本にはすでに実子として記載されており、紛れもなく日本人である。一方、中国でも出生届けが受理されているので、日中双方のパスポートを持っている。日本の法律では、22歳までに国籍を選択すればよい。しかし、中国は一切、二重国籍を認めていない。

その子は日本にやってくるときに、中国のパスポートを使って出国した。日本に入国するときにも中国のパスポートで入国した。中国のパスポートには短期滞在のシールが貼られ、入国のスタンプが押されている。実はこのとき、中国人のお母さんの在留資格を「日本人の配偶者等」に変更する手続きをしようとしていた。短期滞在からの変更申請は原則認められないのだが、認めてもらえる可能性のある数少ないケースのひとつが「日本人の配偶者等」への変更手続きなのである。

ところが、この手続きにはそれなりの日にちがかかる。お母さんの方は、変更申請手続きをしているので、まず出国することができない。だが、滞在期日を過ぎても2か月間の特例期間が認められるので、不法滞在になることはない。ところがお子さんの方は、日本国籍を持っているから日本には居られるのだが、中国のパスポートの査証を放置し、期日を過ぎると不法残留になる。日本人なので放っておけばよいとも言えるのだが、今度は中国に帰るときに困ったことが起こる。中国のパスポートで中国へ入国しようとすると、「オーバーステイなのに、なぜ日本に滞在できたのか」ということになるのだ。

ならば日本のパスポートで出国し、同じ日本のパスポートで中国に入国するとどうだろう? 中国人のお母さんと一緒に出国したはずのお子さんが、日本のパスポートで入国してくることになる。これについて中国側が目をつむってくれるかどうか......ご両親と議論した結果、危険は冒したくないということになった。結局、日本に住み続けるのだから、お子さんに中国籍を持たせておく必要はないだろうということになったのである。

そこで、まずオーバーステイを回避するために、ビザの抹消手続きを行った。戸籍謄本を添付し、パスポートを提出すると、「日本国籍のため査証を抹消する」という内容がパスポートに記載される。入管からは、「中国側から戸籍を抹消されますけどよろしいですね、依頼者は理解していますか?」とご丁寧に指摘があった。もちろん、それを承知で申請したのだが、入管職員のご指摘どおり、中国側からあっさり中国籍を抹消された。

6.証明書の誤記載

入管業務を始めたとき、諸先輩方から「外国の書類は間違いがあってあたりまえだから気をつけるように」というご指導をいただくことがあった。パスポートのスペルが間違っていて他の書類と違うためにトラブルになったとか、ぞっとするような話をさんざん聞かされたのだが、私も逆のケースは経験がある。つまり、パスポートではなく他の証明書の方が間違っているケースだ。

それは結婚証明書で、奥様の生年月日が違っていた。海外では戸籍のある国の方が少ないので、「家族滞在」で奥様を呼ぶときには結婚証明書を添付する。結婚証明書は、役所に結婚を届け出て、役所が発行してくれる方式のほか、結婚式のときにその国の公証人や法律家が作成することもある。依頼は何件かあったのだが、いずれも女性の方の生年月日の生まれ年だけが違っており、女性の年が若く記載されていた。

そのうち一件で、本人になぜなのか訊いてみたところ、「気を遣って、若く記載してくれたのかもしれない」と、なんとも意味不明な回答がきた。本当かどうかはわからないが、いずれも女性の方が年上だった。もしかしたらまだそういう感覚の国もあるのかもしれない。

しかし、パスポートの生年月日と結婚証明書の生年月日が違っていては証明書にならない。そこで改めて、公証人の前で「この記述は間違っているが、私と彼とは間違いなく夫婦である」旨の宣誓供述をしてもらい、公正証書を作成してもらった。しかし、もし公証人が気を遣って若く記載してくれたのが本当なら、公正証書もあまり信用できそうもないことになる。余計な気遣いではなく、単なる間違いであって欲しいと思う。

<参考記事:日本人が持つイメージより、はるかに優秀で勤勉な外国人労働者たちのリアル

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